Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第14章 「意外な盲点」  投稿者:YOSSYFLAME
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
すぱぁぁぁぁぁん!
ゆきの強烈なストロークが敵コート内を急襲する!
が、
「遅いっ!」
スパンッ!
一体いつのまにカバーにまわったのか、東雲恋のより強烈なリターンが炸裂!
「あうっ!」
その弾丸サーブが初音の横をすり抜ける。

「イン!  15−0!」

「くっ…」
歯噛みするゆき。
何故、何故にこれほど圧倒的にやられてしまうのか?
確かに東雲恋のテニスにおける実力は折り紙つきなのは誰もが証明できること。
しかし、彼女のパートナー、宇治丁が全くの足引っ張りである以上、
実質2対1のハンディを背負ってるも同然の状態で、
何故、これほどの活躍が出来るのだろうか?
「ごめんね、ゆきちゃん…」
申し訳なさそうに謝ってくる初音。
「い、いやいや、初音ちゃんはなんにも悪くないよ、ほんとうに。」
そんな彼女に慌てて謝るゆき。
「(しかし、この劣勢をどう跳ね返したらいいんだ…!?)」







Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第14章 「意外な盲点」







――第2ブロック一回戦第2試合、神凪遼刃、ルミラ・ディ・デュラル組vs川越たける、長瀬祐介組。

ぐ…ぐぐぐ…
「あう…」
かしゃっ!
いまいちタイミングがつかめないたけると祐介。
一時はリードしていたものの、
ルミラと神凪が繰り出す”伸びのあるストローク”に全くタイミングが掴めずに、
右往左往しているうちに、いつしかポイントまで追いつかれてしまったのである。
そして、ゲームポイント、2−2で迎えた次のゲームも、なかなかタイミングが取れずに
劣勢のまま試合は淡々と進行していった。

「しかし、これも結局小技なんですけどね。」
こちらは現在優勢に試合を展開させている神凪、ルミラ組。
自分達が優勢に試合を展開させているこの状況を、”小技”と言ってのける神凪。
「仕方ないわよ、あたしたちが目指すものはあくまで優勝。
一回戦程度で手の内を全部ばらすのは愚の骨頂よ。」
そう言って、観客席を一瞬見据えるルミラ。
そこには、勝てば2回戦で当たることが確実のYOSSYFLAMEが虎視耽々と戦況を見つめている。
奸計ならばルミラにも匹敵するかもしれない強敵、広瀬ゆかりをパートナーとしている男が。
そしてその横には、2回線進出を決めたディアルトと、
頭脳戦ならトップクラスのDマルチも控えている。
ここからは見えないが、風紀委員チームの宮内レミィ、
そして、戦略ならDマルチにも匹敵するとーるが、どこからか観戦していることは想像がつく。
この第2ブロック、第一試合で敗れたシッポ・澤倉美咲組も含めて
イマイチ派手さには欠けた面子ぞろいではあるのだが、
実は、”戦略”という視点で見るならば、全8ブロック中最も手強いブロックなのかもしれないのである。

「(だから、できるだけ手の内をさらす試合はしたくはないのよ)」
ルミラの戦略では、”これ”で1回戦、できれば2回戦も突破できれば、まずまず御の字なのである。



――再び第7ブロック第2試合。

「(ごめんねゆきちゃん。…でも、君たちの闘い方じゃ、僕らには勝てないよ。)」
一見狙い撃ちされてるかのような印象の宇治だが、
実は全然これぽっちも疲れてはいない。
それもそのはず、この試合、今のところ全てが自分の手の内なのであるから。
「(敵を知り、己を知れば、百戦危うからず…ってね。)」

「ほいっ!」
スパーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

「ゲーム!  宇治、東雲組!  4−0!」

そんなことを宇治が考えている間にも、パートナーの恋が再びリターンを決め、なおも差を広げた。
その恋の大活躍も、宇治の立てた筋書き通りということを見切っている人間が何人いることか。
「…うまくいってるね。」
コートチェンジ。
宇治の目の前を通りすぎる際に小声でつぶやく恋。
軽く口元に笑みを浮かべてそれに応える宇治。
実質1人で試合をやっているだろう恋なのだが、全然疲れた様子がない。
というか、本当に疲れていないのであろう。
ここまで書いたところでわかる人もいるかもしれないが、宇治のシナリオとは、

「囮作戦」

という、一見なんてことない作戦のようだが、意外と相手が気づかない作戦なのである。
もともとテニスに関しては群を抜いている恋に比べて、宇治の実力とのバランスは如何ともし難い。
ほんの数週間練習したところで、実力が並ぶどころか、足を引っ張らないレベルにすら到達することは不可能。
しかし、宇治は、その”離れすぎている実力差”を最大限に利用することを考えたのである。
恋の強さを最大限強調すると同時に、自分の弱さ、無様さを隠すことなく晒した。
そんな2人を見て、対戦相手はどう思うか。
当然、実力者の恋よりも宇治を狙い撃ちにするに決まっている。

”そのことが既に彼らの策略にはまっていることさえ知らず”

恋にしてみれば、飛んでくるコースが丸分かりなのである。
おまけに、宇治を狙う相手がクセのあるショットを打ってくる訳もなく、そのショットは至極直線的。
そのこともまた恋にとっては好都合なのである。
おまけに、宇治は恋が打ちやすい様に、そのポジションの立ち位置を微妙に調整している。
宇治狙いのショットが多少ずれたところで、恋に影響がない様に。

宇治は今、それを悟られない様に、淡々とプレイを続けている。
しかし、内心着々と勝利への確信をしていたのである。
「(初音ちゃん、ゆきちゃん、この勝負、…もらったよ。)」



「あー!  もうイライラすんなあ!」
コートチェンジをする際に生じるわすかばかりの時間にゆきたちを叱咤する夢幻来夢。
「全然練習の成果が発揮されてないやないか!  あぁ!?」
どうも来夢という男は、まわりの状況一切お構いなしで言いたいことを直線的にぶつけるタイプらしい。
「…でも夢幻くん、彼らは…」
「あーもー!  あいつらが問題なんやないって!  お前らが問題なんや!
腕の振りも全然縮こまってるし!  思いっきり振ったらんか思いっきり!」
「…そんなこと言われたって。じゃあ自分でやってみればいいじゃないか…!」
続けざまの来夢の叱咤に逆ギレしかかるゆき。
「おーよ、やれるもんならやったるわい。
少なくともなあ、俺はお前らみたいに相手に萎縮してビビったりはせえへんで、来た球を全力で打ち返してなあ!」
「夢幻くん…」
「えーか、もう4つとられてんやお前らは。
もううだうだ考えてるゆとりなんかお前らにゃないんや!

来た球思いきり打ちかえさんかい!」

「夢幻くん…」
そうつぶやくしかない初音とゆき。
「ゆき選手、柏木選手、早急にコートチェンジお願いします!」
ジャッジの声に押されるようにコートチェンジに入る初音とゆき。

「ゆきちゃん…」
「初音ちゃん?」
「私、頑張るからねっ。」
何か吹っ切ったかのような表情の初音。
気がつけば、自分も体の力が抜けている。
”相手の強さ”という不可視の呪縛からさながら解かれたかのように。
「うん。」
そして、ゆきは力強く頷いた。



「プレイ!  サーブ、東雲!」
そして、圧倒的優勢の宇治と恋のサーブから試合再開!
「しょっ!」
恋のサーブが鋭く入って来る!
「(…そうだな…)」
にもかかわらず、全然ボールを見ていないゆき。
「(確かに、相手の実力ばかり気にしていて、自分の為すべきことを忘れていたのかもしれない)」
恋の鋭いサーブが今、ゆきの足元を襲う!
「ゆきちゃんっ。」
初音の悲鳴が飛ぶ。
「(そう…肝心なのは、”自分がどれだけやれたのか”…!)」

どきゅっ!

ぎゅんっ!
「ちっ!」
すぱんっ!
突如ゆきに打ち返されたサーブを、不意をつかれた格好になった恋がなんとか返す。
「(夢幻くんの言うことも、案外的を得ているのかもしれないな。)」
恋のリターンは、いつもほどのキレがない!
少なくともゆきはそう判断した。否、そう見えた。
「しゃあぁぁぁっ!」
どきゃ!
ゆきのリターンが恋の真正面に飛んでいった。
「な…なんか急にボールのキレが…!?」
一瞬、驚愕する恋。
しかし、
「所詮は多少キレが増した、程度!  あたしにとってはそう変わりないっ!」
ぱきゃっ!
痛烈なリターンをゆきの逆サイドに撃ち返す恋。
しかし、やはり恋もゆきの気迫に気圧されていたのだろう。
彼女はすっかり失念していた。
そこに柏木初音がいたことを。
ぱくっ。
そして、ボールは誰もいない隅に跳ね返された。

「イン!  0−15!」
「やったあぁぁ!  やったよ、ゆきちゃん!」
「初音ちゃん、ナイスボレー!」
まるで勝ったかのようにはしゃぐゆきと初音。
「へっ!  やれば出来るやないか。」
「よくやったぞ!  ゆき!」
「…やったね、初音…」
観客席からも歓声が飛び交う。

「フン!たった1ポイントで何を。」
しかしながら恋は全く気にした様子はなかった。
だが、このポイントを皮切りに、この試合、だんだんと風向きが変わってくるのである。



「せいやっ!」
ゆきのリターンが遠慮なく恋の真正面に飛ぶ。
それを的確に打ち返す恋。
強烈なリターンがゆきを襲うが、全く臆せず打ち返す。
恋のショットは全般的にかなりキレがなくなっていた。
「えいっ!」
そうこうしているうちに、初音のボレーに決められてしまう。
「ゲーム!  ゆき、柏木組、2−4!」

「くっ…!」
あからさまに歯噛みする恋。
「(…まずい。)」
まだ2ゲームリードしている。あと2ゲームとれば勝ちである。
しかし、宇治の頭の中には、いや、恋の頭の中にさえ、
”勝利”という明確なビジョンは徐々に霧散しつつあった。
ゆき達が宇治狙いを止めて、ただコートに打ち返すことだけを、
いや、場合によっては恋すらも標的にしだす、自然発生的な変幻自在テニスを展開しはじめたとき、
すでに今は、まさに2対1のシチュエーション。
いや、技術的には全く及ばぬ宇治が、恋にとってはかえって障害物にさえなりえる最悪の状況。
恋は恋で、ようやく本来の実力を発揮しだしたゆきと初音のポジションどりが、
難攻不落の城塞にさえ見え始めてきたのである。
もちろん、ゆきと初音の全力といっても、個々の実力では恋に及ぶものではない。
しかし、テニスというスポーツ、
完全に我をとりもどした2人相手に1人で勝てるほど、甘いスポーツではない。
しかも、押せ押せムードのゆき達に対して、まさに向かい風の宇治、恋組。

「ゲーム!  ゆき、柏木組、4−4!」

そしてついに追いつかれた宇治組。
ここで恋のもう一つの弱点が露呈するとは、宇治も計算外だったであろう。
彼女の勝ちパターンは、典型的な”先行逃げ切り型”であり、
この不利な状況で1人で逆転できる要素は、この時点では皆無。
それどころか、徐々にペースが狂いはじめてゆく恋。
全くの計算外の状況に追い込まれた彼ら。
焦る恋に効果的なアドバイス、いや、気休めすらもかけられない自分に無性に腹が立ってくる宇治。
…しかし、
即席コンビである宇治と恋。
そこまでお互いのことを知っている訳ではなかったのである。

この試合、あえて敗因を挙げるならば――




「ゲーム!  アンド、マッチ・ウォン・バイ、ゆき、柏木組! ゲームポイント、6−4!」  





――お互いがお互いを知る時間の差が、敗因だったのかもしれない。



      ゆき×柏木初音組…2回戦進出!
      宇治丁×東雲恋組…1回戦敗退。



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どおもお、一ヶ月半ぶりに再開しましたテニスLです!
作者の都合により、休載してしまって、誠に申し訳ありませんでした(深々)

ゆかり:zzz…
よっし:………。
ゆかり:zzz…、…だってわたし、女優だもの〜…、zzz…
よっし:…起きんかい。

ばしゃっ!(水をかける)

ゆかり:…………(寝ぼけ目ながらすごい殺気)
よっし:(ちょっと待て、なんで俺がこんな目で睨まれなくてはならんのだ)

有無を言わせずYOSSYの腕を取ってずいずいと退場する寝ぼけまなこのゆかり。

そして、以下惨劇(笑)



ゆかり:おひさしぶりです!  広瀬ゆかりです! 
        作者の都合で一ヶ月半の休載、本当に申し訳ありませんでした(深々)。
        これからはどんどん”書かせますので”よろしくおねがいします!

        今作は、宇治さんのトラップの真実が明らかになりましたが、
        …面白かったでしょうか?
        作者が気が利かなくてすみませんっ(礼)

        次回は、この試合のその後をちょっと書いてから、
        いよいよルミラ組vsたける組の決着です!
        そんなわけで、これからもよろしくお願いします。