Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第15章 「例え力尽きても」  投稿者:YOSSYFLAME


――第7ブロック、試合後。

「「ありがとうございました!」」

終わってみればゆき組の脅威の大逆転勝利だったこの試合。
勝ったゆきと初音は、もう感無量の顔立ちをしている。
が、
対戦相手の東雲恋は、握手を終えたと同時に早足でコートを出ていってしまった。
会場はなおもざわついている。
よもや”あの”東雲恋が一回戦で散るとは、誰が想像できたであろうか。

「ゆきちゃん、参ったよ、完敗だ。」
宇治がもうまいったという顔つきで話し掛けてくる。
「いや、うまくハマっただけだよ。」
ゆきも、彼らしい謙遜で言葉を返す。
「…もう少し、彼女の力を引き出すことができたなら…」
別に誰ともなく呟いたその言葉。
「宇治くん…」
「あ、いや、ごめんね、なんか一人で落ち込んじゃって。」
ごまかすように笑う宇治、そして、
「僕らの分も頑張ってね。…彼女のためにも。」
そう、力強く言ってのけた。
「そうだ、宇治くん…、彼女のところにいってあげなよ。」
「え?」
「今、彼女に何か言ってあげられるのは、君しかいないと思うから…」





――第2ブロック一回戦第2試合。

「うーん…。」
「変ですよね、先輩。」
「打って打ち返せない球じゃないんだけど、
どうも振り遅れて変な方向に飛んでいってしまうからなあ…」
大苦戦を続けている、たける、祐介ペア。
ポイントも3−2と、逆にリードされたまま試合は進んでいった。

「秋山さん秋山さんっ!  たけるさんたち、どうやら劣勢のようですねっ!」
「ぬぬう…あれしきの球に苦戦するとは…まだまだ鍛えてやらなくてはならぬな。」

「あ、電芹〜っ、大変だよやられちゃうよ〜」
少し試合間隔が開いたので、たけるの応援をしにAコートの選手席に座った電芹と秋山登に
声をかけるたける。
「なんかボールが伸びるんだよ〜、どうしよ〜」
たけるが泣きそうな声で電芹と秋山に訴えかける。
「え?」
「なに?」



「…ってわけなんだけど。」
「…本当だろうか…、しかし、このままだとラチがあかないことだし…」
「うん、じゃあ、やってみるよっ」
半信半疑のたけると祐介であったが、他に打つ手がない以上、これに頼るしかないのであった。





――Bコート、第4ブロック一回戦第2試合、FENNEK×ちびまる組vs八塚崇乃×観月マナ組

「せやああっ!」
どんっ!
FENNEKのパワーリターンが八塚組のコートに突き刺さる。

「ゲーム!  FENNEK、ちびまる組、3−1!」

「やったですね、FENNEKさんっ!」
「ああ、この調子で絶対に勝つか、ちびまる!」
互いの健闘を喜び合うFENNEKとちびまる。
今回ちびまるは、普段のSDボディではなく、Dガーネット仕様(Dガーネット本人ではないが)
のボディを借り物にして試合をしている。
当然と言えば当然のことだが、その運動性能は、従来のそれを大きく上回っていた。
「今のところは好調のようだな。」
「そやね、ちびまるもよう動いてるわ。」
Bコートの選手専用席で観戦しているのは、工作部の菅生誠治と保科智子。
智子のパートナーの八希望は、魔球を打ちすぎた手を、医務室でマッサージしてもらっている。
それにしても、Bコートには工作部の選手が多い。
互いにサポートしやすい環境にあることを考えれば、結構クジ運に恵まれているといえるだろう。


「へー、結構頑張ってるじゃないの。」
「――そうですね。」
陸奥崇とHMX−13セリオ。
開幕試合で敗れた二人も、激励してくれたFENNEKの試合を興味深く観戦していた。


「まったく、参ったなあ…」
ため息をつくしかない風情なのは、対戦相手の八塚崇乃。
FENNEK、ちびまるのショットには、八塚本人に対する殺気が感じられないため、
浄眼で反応することがまるで出来ないでいる。
「しかし、ここまで強いとはな…」
FENNEKとちびまるの正確無比のショットに感服するしかないといったおももちである。

げしっ!

「痛っ!」
「もお!  まだ全然決着がついてないのに、その辛気臭い態度はどうにかならない!?」
突如襲った脛蹴りにたまらず足を押さえてうずくまる八塚に、そんな彼を睨み付けるパートナーの観月マナ。
「いや、そりゃ勝つつもりではいるけどさ…」
「だったら最後まで全力を尽くしなさいよ、自分の出せる全ての力をっ!」
マナの強烈な叱咤激励が、やる気なさげだった八塚の脳髄を刺激した。
「…そうだ、やるからには全力を尽くす!たとえどんなことでもっ!」
開き直った八塚が右腕を上に掲げ、

「我掲げる霧の城塞!」

その呪詛と共に、八塚側のコートが霧に包まれて行く…
「…ふふっ、これでは狙いを定めることすらできないだろ?
我が霧は、わずか1メートルもの視界さえもはばむ!」
「くっ…」
全くコートを見ることが出来なくなったFENNEK、さすがに顔面蒼白である。
っていうか、ただ単に車は霧に弱いという拒否反応だけかもしれないが。
「ふふ…、心配はない、ちびまるには雨天でも全く問題のないレーダーがある。
それをもってすれば、この程度の霧など、なんの問題もない!」
自信満々の誠治。
だが、彼の予想は見事に外れることになる。

「ねえ。」
「何?  マナちゃん。」
「霧で全然見えなくてどこに打ったらいいかわからないんだけど。」

…………。

「ごめん、そこまで考えてなかった。」
「ちゃんと考えてから技使いなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
げしっ!
本日二度目の脛蹴りが炸裂。
結局、誠治の危惧以前の問題だったわけである。


「な、なんなんだあいつらは一体…」
さすがに脱力するFENNEK。
その後もFENNEK達のやや押し気味の試合が続き、ついには5−3とマッチポイントを取るにあたったのである。
だが…

がしゃんっ!
「ちびまるっ!?」
突如ちびまるがバランスを崩してコートに倒れる。
しかも、そのまま起き上がらない。
慌てて彼女に駆け寄るFENNEK。
観戦していた誠治達も、急いでコートに駆け寄る。

「………駄目だ。」
辛そうに首を振る誠治。
原因は慣れないボディでの不整合。
ちびまるがこのボディに定着してから、まだ日が浅い。
確かに練習では異常はなかったし、整備だって入念に行ってきた。
しかし、練習と試合は違う。
一本一本がまさに真剣勝負の本試合に耐えられる適合性は、まだちびまるのボディにはなかったのである。
もっとも、八塚とマナの予想外の粘りもその一員だったのかもしれない。
「…試合放棄…か。」
とても定時の10分でどうにかできるような状態ではない。
その時、

よろよろ…

「…ちびまる。」
なんと、不整合によりロクに動かないボディを、自分の意志の力で動かして立ち上がったちびまる。
「…私は大丈夫です…さあ、試合をしましょう…」
そう言って、よろよろふらふらとコートにもどるちびまる。
だが、さすがにそこが限界。
ぐらっ…
再び倒れ掛かるちびまるを支えるFENNEK。
「ちびまる、もういいんだ…うん、もういいんだよ。」
優しくちびまるにささやくFENNEK。
しかし、それでもなおふらふらとコートに向かおうとするちびまる。
「私は…大丈夫です。試合を、しましょう…、たのしい、しあいを…」
「ちびまる…」



「セリオ…さん、みたいな…たのしい、しあいを…」



「…ちびまるっ…!」
完全に起動停止してしまったちびまるのボディを支えているFENNEK。
そしてそのままコートにちびまるを抱えていって、自軍のコートの壁に寄りかからせてあげた。
そして、

「…試合を再開しましょう。」

自らコートに戻り、サーブの体勢に入る。
「ち…ちょっと待ってくださいFENNEK選手!
パートナーのちびまる選手が試合続行不能状態では、…残念ですが、棄権負けと言うことに…」
「わかってます。」
審判に向き合ってはっきりと告げるFENNEK。
「だけど、俺は彼女と約束したんです。『勝ち負けよりも、最後まで楽しく試合をしよう』って。
彼女との約束を破る訳にはいきません。
ルールはルールですから、あくまでそれに従います。
ただ、この試合だけは、最後までやらせてください。」
「しかし…」
「別に俺はかまいませんよ?」
FENNEKの真摯な物言いに、心揺れるものの、
それでも二の足を踏む審判に、ダメを押すかのように訴える八塚崇乃。
「八塚くん…」
「いや、なんていうか、これくらいはさせてくださいよ、FENNEK先輩。」
期せずして勝ちを拾ってしまったという罪悪感があるのかどうか、
なんとなくバツが悪そうにしながらもFENNEKに同調する八塚。

「…わかりました。では、試合を再開します!」

審判が戻って行く。
ネット際では、FENNEKと八塚の二人が向かい合っている。
「八塚くん。」
「はい?」
「次の試合、頑張ってくれな、…彼女のためにも。」
「…最善は尽くしますよ。」
二人の手がネットの上で固く握られる。
その視線は、コートの壁に寄りかかって寝ているちびまるに向けられている。


――フェネックさん、私も、セリオさんみたいに楽しめるでしょうか?


試合前にちびまるが言っていたその言葉。
結果としては途中で倒れてしまったが、それでも一生懸命頑張ったちびまる。
すでに試合を続けられる状態ではなかったにもかかわらず、”楽しむために努力した”ちびまる。
そんな彼女に応えられることは、この試合を最後まで戦うこと。
そして今、FENNEKのラケットは空を切り裂いた。



      八塚崇乃×観月マナ組…2回戦進出!
      FENNEK×ちびまる組…試合続行不可能につき途中棄権。



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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:とゆーわけで、今作のメインはちびまる組ですね。
ゆかり:で、ちびまるさんはどうなった訳?
よっし:ちょっと待ってろ?えと…(ぴっぽっぱっ)もしもし、情報特捜部ですか?
長岡志保(ゲスト出演):ちょっとよっしー!  この志保ちゃんの出番が全然――

ぴっ。

ゆかり:どうしたの?
よっし:悪い、間違えてかけてしまったわ。んじゃ、工作部に…(ぴっぽぱっ)
保科智子(ゲスト出演):はい?  なんやよっしーか、どしたん、私忙しいやん。
よっし:つれないなあ…俺と君の仲じゃ――
智子:つまんないことゆーてると切るで。
よっし:だ…、それはそれとして、ちびまるちゃんの具合はどう?
智子:それで今いそがしいねや。でも、心配はあらへん。
      命とかに別状は全然あらへんし、元のボディで整合とればすぐに元気になる。
よっし:そっか…よかったなあ…
智子:そーゆーわけなんでもう切るで、猫の手も借りたいくらいなんや、今。

ぴっ。

よっし:あら、もう切っちまいやがった。
ゆかり:でも、元気そうでよかったじゃない。
よっし:ま、ね。ま、元気なのが一番だから。
ゆかり:さて、次回予告は?
よっし:今度こそ終結させたいルミラvsたけるさん戦。
        そして、東西さんvsSOSさん戦と、セリスさんvsまっけいさんの対戦が絡む予定、
        でもって、一回戦最大の目玉、岩下×瑞穂組vs西山×楓組がからんでくるかもです。
ゆかり:ホントに終わるんでしょうね、ルミラ戦。
よっし:多分。
ゆかり:多分って…、はあ、この試合の勝者と私たちが当たるというのに(汗)



FENNEKさん、ちびまるの担当者・菅生誠治さん、八塚崇乃さん、
今大会の参加、本当にありがとうございました。