Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第16章 「インナー・オブ・ハンド」  投稿者:YOSSYFLAME


――Dコート、8ブロック第一試合中の観客席。

「このぶんだと、私たちの試合とかぶる可能性がありますね…」
とんでもないスローペースのTaS組vs葛田組の試合を見ながら呟く男、SOS。
「藍原さんの連戦に影響が出なければよいのですが…」
そう、このままのペースで行くと、
Bコート3ブロック一回戦第3試合の彼と藍原瑞穂のペアと
Dコート8ブロック一回戦第2試合の、岩下信とやはり藍原瑞穂のペアの試合時間が切迫する危険性があるのである。
「東西さんには悪いですが…極力早く終わらせていただきます…」
間接的とは言え、連戦という状況は瑞穂にとってあまり好ましい状況ではない。
幸いにも一回戦の相手は、練習試合で終始押していた東西のペアが相手。
「女性に苦労をかける訳にはいきませんからね。」
そう言ったのを最後に、彼の姿はそこから消えた。



――そして、Bコート3ブロック一回戦第3試合、SOS、藍原瑞穂組vs東西、姫川琴音組。


「ゲーム!  東西、姫川組、4−1!」


「(し、しまったあ…!  よもやこんな試合展開になるとは…私のミスでした…っ!)」
悔しそうに歯噛みするSOS。
そんな彼の悔しさをよそに、再びストロークが襲いかかる。
「SOSさんっ!右スミですっ!」
瑞穂がよく通る声で指示を出す。
「はいっ!」
SOSの必殺能力”転移”で、あっという間に右スミへ移動し、ストロークを打ち返す!
ぱこんっ!
「ち…またか…っ!」

「アウト!  0−15!」

「まったく…変な回転がかかっていて、打ち返せたものじゃないですねえ…」
ため息をつきながら向こうのコートを見つめるSOS。
向こうでは、策がバッチリはまりまくりで、笑顔が絶えない東西と琴音の姿が。

その、東西、琴音ペアの策とは、
『琴音の超能力でボールに回転を加えること』
という、ありがちな作戦だったりするのだが、
実は、妙な回転がかかってるボールは、大変打ちづらいのであったりする。
SOSの転移の力を持ってしても、実際にボールを打つのは当然ラケットであるからして、
いくらボールの位置に先回りしても、瑞穂の助言があろうとも、あまり効果がなかったりする。
ただし、念動力を駆使する琴音が集中できなければ、当然この魔球は打てないのが弱点であったりする。
故に、東西のショットでしか変化球は放てないというわけである。
SOSも瑞穂の助言によりそれは熟知している。
しかし、助言してもらったからといって、慣れないこのボールを即打ち返すのは、まさに至難の技。

しかし、このような事態を招いたのは他の誰でもない。SOS自身のまいた種であるのである。

このあいだの練習試合のとき、彼は奸計を用いて、
東西のパートナーの琴音を言葉巧みに神凪遼刃とのデートに行かせて、
東西の悔しがる顔を存分に満喫した…
まではよかったのだが、
その行為が、彼らの実力を研究する機会をみすみす逃してしまう行為であることに気づいていなかったのである。
しかも、わざわざ試合前に、”転移”を含む自分達の手の内を全てさらけ出す始末。
まさかトーナメント緒戦で当たる訳はないと思って、存分に手の内を見せ付けてしまったのであろうが。
結局、相手の手の内を完全に心得てるチームと、全然相手の手の内がわからないチーム。



「ゲーム!  アンド、マッチ・ウォン・バイ、東西、姫川組!  ゲームポイント、6−1!」



勝敗は、自ずとわかりきったものである。



「藍原さんっ、申し訳ありませんっ!」
瑞穂に向かって平身低頭詫びるSOS。
「あ、あの…頭を上げてください…
いえ…、私もまさか緒戦で東西さん方と当たるなんて思ってもいませんでしたから…」
「しかしっ!  わざわざ重複までしていただいたのに…」
なおも頭を下げるSOSに、
「いえ…、重複出場を選んだのは、私ですから。」
そういって微笑む瑞穂。
「…岩下先輩のところまで送りますよ。」
そんな瑞穂の肩を掴み、次の瞬間、彼らの姿は消えた。



      東西×姫川琴音組…2回戦進出!
      SOS×藍原瑞穂組…1回戦敗退。





――第2ブロック一回戦第2試合。ルミラ、神凪遼刃組vs川越たける、長瀬祐介組。

スパーーーーーーンっ!

「やったあ!  すごいよ電芹っ!」
この劣勢の中、ついにボールをジャストミートしたたける。
貴重なアドバイスをくれた電芹に向かってぶんぶん手を振る。

「なあ、電芹。」
「なんですか、秋山さん?」
観客席に座って、たけるの応援をしている電芹と秋山登。
その場所で不思議そうな顔で電芹に問い掛ける秋山。
「一体たけるは何にてこずってたんだ?  何の拍子もないボールにしか見えなかったんだが。」
その問いに電芹は笑顔で、

「”影”ですよ。」

「影?」
「はい、ルミラさんは、自分の魔力で影を操り、ボールに伸びがないような影に見えるよう、操作をしていたんです。
影っていうのは、今のような天気のいいときには、無意識にでも目に入って来るものなんです。」
「確かにそうだな。」
頷く秋山に対し、やや得意そうなおももちで電芹の説明は続く。
「それによって必然的に、飛んでくるボールは”見た目よりも伸び、威力がある”と、感じる訳です。
影による先入観と錯覚が、ルミラさんと神凪さんのお二人が作った罠なんです。
ですから、その錯覚に囚われる前に、ボレーで打ち返せば問題はないんです。
一番その錯覚が有効なのは、自分の目の前でバウンドしたときに見える影をコントロールしたときなのですから。」

「大正解♪  さすが成長するセリオタイプってところかしら?」
電芹の説明を横耳で聞いていたルミラ。
ゲームの手を中断して、楽しそうに電芹、そしてたけるに語り掛ける。
「ホントはこの技を使って、6−4くらいのスコアで、一回戦、二回戦と勝ちたかったんだけど…」
あいかわらず不敵な笑みは崩さない。
「あのぉ、俺らまでまきぞえですかい。」
YOSSYFLAMEが苦笑気味に返す。そんな彼に対して、
「ええ、その通りでしたよ、YOSSY君。
正直言って、一回戦と君らとの二回戦、手の内をさらす意味もないと思ったんでね。」
ルミラではなく神凪がYOSSYの揶揄に応える。
そしてルミラがそれに続くように、
「だけど、まさかこんなに早く化けの皮が剥がれるとは思わなかったわね。
本当にさすがとしか言いようがないわ。…あなたたち。」
一瞬、ルミラの瞳が暗黒の輝きに彩られる。
そして、試合を再開すべくサービスラインに戻って行く。

「見せてあげるわ。…小細工なしの私たちの実力をっ!」

どきゅっ!

「…速いっ!」
驚愕する祐介。
エビルにも引けを取らない速球が、ルミラのしなやかな身体から放たれる!
しかし、バレー部で鍛えられたたけるの反射神経も見事なもの、追いつく!
「にゃっ!」
ばしんっ!
たけるのリターン!
逆側のスミに向かい、綺麗に飛んでいく!
「ハアッ!」
どきゅっ!
神凪がこれでもかとばかりに弾き返す。
そしてそのリターンを再び祐介が撃ち返す、一進一退のリターン!
しかし、
「やあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
どきゅっ!
ルミラ渾身のリターンがすごい勢いで襲いかかる!
「…でも、反応できないわけじゃないよっ!」
たけるが追いつく!  その時!

クンッ!

どきゃっ!

ルミラ渾身のリターンが、たける側のコートを撃った。
がたっ!
YOSSYが思わず立ち上がって呟く。
「ス、スライダー…だと?」

「そう、これが私達の最後の手、”高速スライダー”。さっきまで出し惜しみしてたんだけどね。
だけど、
やろうと思えば小細工なんて使わずに、この球だけで優勝できる自信はあるわよ。」

YOSSYの問いに答えながらも、その視線はたけると祐介を見据えて離さない。
その傍らでは、やれやれという顔をしながらも、笑いを隠さない神凪がいる。
ついにさらけ出した最後の切り札。
決着の刻が迫ろうとしている。



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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:今回は、東西さんとSOSさんの因縁?の対決があったんですが、どうでしたでしょうか?
ゆかり:策が裏目に出たということかしら?
よっし:意味が違うような気もするが、そゆところですかね。
ゆかり:女って魔物ね…
よっし:(いや、この際関係ないような気もするが)
ゆかり:さて、次回は?
よっし:ホントに今度こそ決着をつけたいんですけど、決定的なネタが出ず、伸ばし伸ばしになっている、
        神凪さんvsたけるさんの試合。
        今度で終わらせたいんですが、ネタの蒸留次第では、次次回に引き伸ばされる可能性もありますので
        ご了承ください。
        そして、3,4ブロックの一回戦がこれで全て終了しました。
        Bコートが空いているので、作者の気分次第では、
        1ブロックの橋本、来栖川芹香組vs九条和馬、河島はるか組、
        7ブロックの夢幻来夢、柏木初音組vsHi−Wait、月島瑠香組を行うかもです。
ゆかり:行き当たりばったりですけど、よろしくお願いしますね。(深々)



東西さん、SOSさん、
今大会の出場、誠にありがとうございました。