「ハアァァァァァァァァッ!」 ばきゃっ! ルミラの一撃がなおもたける側のコートを撃つ! ルミラの必殺ショット”高速スライダー”の前に、なす術全く無しのたける、祐介組。 「せっ!」 負けじと祐介もリターンを返すが、 「シャアッ!」 神凪の強烈なリターンに阻まれる。 それに反応してたけるが飛びつくが、 「やあぁぁぁっ!」 ドキャッ! ルミラのスライダーが再び襲いかかる。 「…そう何度も何度も同じ手でやられてたまるかぁ!」 祐介が気合全開でボールに飛びつく! 「(このスライダーは、大体このくらいで変化するはず! 曲がり鼻を叩く!) ……何っ!?」 どぼっ! 「か…は…っ!」 祐介のどてっぱらにめり込むボール。 「あらあら、私はスライダーを撃つだなんて一言も言ってないわよ?」 うずくまる祐介を見下ろしてせせら笑うルミラ。 ルミラの高速スライダーは、ほとんどストレートと変わらないスピードで左右いずれかに流れてゆく球。 だから、それこそストレートと組み合わされると、凶悪なコンビネーションが完成するのである。 「勝ったな、この試合っ!」 観客席のイビルが勝利を確信した発言をすれば、 「そうですねぇ、まずルミラさまの勝利は揺るがないでしょうねぇ。」 同じくアレイもそれに同調する。 「ルミラ様のスライダーは、ただのスライダーじゃないのよ。 魔力をボールに流し込むことによって、スライダーの回転を生み出す、一種の魔力球ね。 ただ、ルミラ様一人じゃ、あのスライダーはなかなか撃てない。 微少ながらも魔力の流れを、彼、神凪クンによって創り出されている訳よ。 …それに気がつかない限りは、あのコ達は絶対に勝てないわね。」 「…メイフィア、ヤケに説明的な独り言ね。」 「あらあらあら、そうかしら〜?」 エビルに突っ込まれ、汗みどろのメイフィア。 そんな彼女らの間に割って 「まあいずれにしても、俺とエビルが全く歯が立たなかった、あのスライダー、 ちょっとやそっとで打ち崩せると思ったら大間違い…っと。」 そう嘯くのは、エビルのパートナーであり、アフロ同盟構成員のYin。 「とか何とか言ってるうちに…」 「ゲーム! 神凪、ルミラ組、5−2!」 「ふふん♪」 既に余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべているルミラ。 刃のように鋭い高速スライダーと、威力十分のストレート。 その2つの使い分けにより、あっという間に3ゲーム立て続けに連取。この勝負にリーチをかけた。 「ずいぶん苦戦させられたけど、これで終りね。…楽しかったわ、あなたたち。」 「まだ終わってないよっ!」 ルミラの揶揄に痛烈に反発するたける。 「そうだ! 勝負が決するまでは決して諦めてはならんぞ! たける!」 そんな彼女に同調して、秋山もエールの咆哮を贈る。 「(しっかし…、どーしよ、あれ…)」 対照的に、すでに高速スライダーの研究に取り掛かっているYOSSYFLAME。 彼にしてみれば、ルミラ達の勝利が濃厚な現状から、高速スライダーの脅威は決して他人事ではないのである。 「(まったく、嫌な相手と当たりそうだよな… ま、せめてたけるさんたちには、スライダー破りのヒントでも暴いてくれるよう期待するか… …ん?)」 ふとYOSSYの目に留まったのは、暗い顔で俯いている長瀬祐介。 「(…ったく、男がこの状況でふさぎ込んでてどうするかねえ…?)」 祐介のふさぎ込みように呆れるYOSSY。しかし、 「(ま、俯きたくなる気持ちもわかりますけどね。 私が微少な気の流れを作り上げた状態で、ルミラさんがラケット越しに魔力を送り込み、そして放つ技、 はっきりいって、考えたくらいじゃどうしようもできませんね。)」 対戦相手の神凪遼刃は、こんな調子で既に己の勝利を確信していた。 そして、ルミラ組優勢のままゲームは進み、ついにマッチポイントに… 「川越さん。」 「…長瀬先輩?」 この土壇場で声をかけられたたける。振り向くと沈痛な顔をした祐介がいた。 「長瀬先輩っ! まだあきらめるのは早いよっ! 終わるまでがんばろ?」 たけるがその祐介を励ます。 しかし、祐介自身は、まったく別のことを思案して俯いていたのである。 「川越さん、僕の電波を使ってみる気はない?」 「えぇ!?」 さすがに仰天するたける。 「僕の電波で一時的に運動能力、反射神経をアップするんだ、そうすれば…もしかしてあの高速スライダーにも… ただ…安全には違いないんだけど…異常に体力を消耗する危険性もあるし… 僕の電波なんかに身を委ねるってのは、気が進まないんじゃ…」 祐介の悩みがこれだったりする。 仮にも女の子の身体の一部に刺激を加えるってのは、さすがに気が引けるのだろう。 しかし、 こんなちっこい身なりでダーク13使徒に所属するほどの女の子。 それに、”恋の成就”という壮大な目標がある今の彼女には、怖いものなど何一つ…! 「うん、いいよっ!」 「本当にいいのかい?」 「うん、なんとしてもこの試合、勝たなくちゃいけないからっ!」 小さい握りこぶしを作って吠えるたける。 「(まったく…すごい子だなあ…)」 祐介はそんな彼女のパワーに、ただただ感心するだけだった。 「さて、お話は終わったかしら?」 「うんっ!」 ルミラに元気よく応えるたける。 「あなたたち、本当によくやったわ。 正直、ここまで引っ張り出されるとは思わなかったもの、本当にすごかった。 だからせめて、私の全力で………とどめをさしてあげる!!」 ドキャッッ! ものすごい速球がたける組のコートに襲いかかる! 「(いくぞ。精神電波・改!)」 祐介が念を唱えた瞬間、傍らにいたたけるの姿が消えた。 そして、 「え…?」 どきゃっっっっ! ルミラの真横に、豪速球が叩きこまれていた。 「イン! 30−40!」 「やったあ先輩! すごいよこれっ!」 自分の持つ力が信じられないかのように飛び跳ねるたけるに、やや苦笑気味に笑みを投げかける祐介。 「(あんまり電波には慣れない方がいいんだけどね…、でも、仕方ないか。)」 「…どうやら、遅まきながらも実力を出してきたみたいね。」 「ええ、そうですね…(まったく、つくづくすごい子ですねえ…)」 結局、このゲーム、次のゲームと、あっというまに2つとったたける組、 だが、このまま黙っている神凪組ではない。 どうやら、祐介が穴と見て、徹底的にスライダーを打ち込んでくるが、 「必殺、バレー部直伝のレシーーーーーーーーーーーーーブっ!」 ことごとくたけるに邪魔される始末。 そして、ついに… 「ゲーム! 川越、長瀬組、6−5!」 逆に勝負にリーチをかけてしまった。 「どーーーーーーーーーーーーーーーーすんのよお! せっかくスライダーを考えたのにぃ! このままだと負けちゃうじゃないのよっ!」 ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい。 「…ぐ…ぐるし…」 一転して大ピンチに追い込まれたルミラ、神凪の首をぐいぐい絞めながらあからさまに動揺している。 「…う、打つ手はありますから…、首を…離して…」 「あら、ごめんなさい。」 やっと締め技から解放されて一息つく神凪。 「で、打つ手ってのを教えてもらいましょうか。」 「…そのままやらせとけばいいんですよ。 どうやら電波によって身体機能を一時的に上げているみたいですが、 そんなことをいつまでもやっていて、身体がもつものですか。 絶対に力尽きる時がきます。それまでは粘って守って粘りまくるのです。」 「…ふむふむ。」 そして、ゲームが再開された。 今までの攻撃的なテニスから打って変わって、徹底的に守りに入ったルミラ組。 たけるの祐介による電波の増強をもってしても、貝のように閉ざされたこの守備網を打ち崩すことは容易ではない。 かといって、ハイパーモードを解除すると、ルミラの必殺スライダーの餌食となる。 そして、電波放出によって、テニスにまで手が廻らなくなった祐介に対しても襲い来るボール。 ルミラ達が守りに入っているために、たいした威力のショットは撃てないが、 それでも元々運動神経がいいとは言えない祐介には十分攻撃になる。 それとてたけるによってカットされるのであるが、それにも取りこぼしがある。 そうこうやっているうちに、結局またもルミラ達にセットを取られ、 ついにタイブレークへと突入するのであった。 「はあ…、はあ…、」 「川越さん、大丈夫かい?」 電波によって自分の普段の身体機能以上のものを無理矢理引き出されているたける。 当然それに対するツケは返って来る。 全力疾走を何度も何度も行ったランナーのように、足が震え、既に満身創痍。 「大丈夫だから…、長瀬先輩、勝つまで、お願いね…」 それでも笑みを絶やさないたける。 勝利に対する執念が、その小さな体の中でさんさんと燃えている。 「(どうする? このままじゃいずれやられてしまう! 何か、何か打つ手はないのか!?)」 「…この勝負、もらいましたね。」 対照的に勝利への確信をもつ神凪。 「電波の力に頼ったところで、彼女の耐久力はまだ微弱なもの。 ほとんど無尽蔵といえる魔力容量をもつルミラさんには及ぶべくもない。」 「人間があの力を使うこと自体、そもそも無理があるのよね。 魔力を媒介にしている私と、持久戦をしてしまったのが彼女たちの敗因ね。 もう、今度こそ楽にしてあげるわよ。」 さっきまでの笑いはない。真剣な顔つきでルミラも続ける。 あんなにあっけらかんとしながら、自らの身を壊すことすら厭わぬ少女。 正直ルミラは、川越たけるという少女を認めると共に、戦慄すら感じはじめていたのである。 「イン! 神凪、ルミラ組、8−7!」 「いいかげんに…あきらめなさいよっ!!」 どきゃっ! 全力の全力。渾身の力をこめて放つルミラのサーブ。 「誰が…あきらめるもんですかぁ!!」 ずきゃっ! スライダーじゃない。ストレートサーブを、敵のど真ん中に撃ち返し決めるたける。 「はあ! はあ! はあ! はあ!」 「(なんなのこの子…なんなのいったい!?)」 突き放しても突き放しても、なおも食いついてくるたける。 既に満身創痍のはず。 己の限界以上の力を無理矢理引き出し、ボロ雑巾のようなたける。 しかしなお、決定的な勝機を敵に握らせない。 無言でルミラを睨み付ける、あどけない顔から想像もつかない闘気。 その闘気をそのままサーブにぶつける! 「勝つんだ…勝つんだ…」 「(川越さん…いったい何があなたを…)」 「勝つんだぁっ!」 どきゃっ! 「(あなたを、そうさせるんですか…?)」 反応すらできない神凪遼刃。 彼の足元に突き刺さる強烈な弾道。 「イン! 川越、長瀬組! 9−8!」 たけるのサービスエースにより、逆に追いつめられた彼ら。 「(なんて人だ…)」 「神凪! まだ勝負は終わってないわよ!」 ルミラの強烈な激。 我に返った神凪、ルミラに一礼をして、 「(そうだ…私たちとて、負ける訳にはいかない!) 神凪のサーブ! 直線弾道を描きながらたけるを襲う! 「はあっ!」 それをたけるが懸命に返す! 「(ん? さっきまでの威力がないっ!?)」 いぶかしみながらもラケットを振りかぶるルミラ。 「まあとりあえず、これで同点よっ!」 どきゃぁぁぁぁぁぁっ! 未だ尚衰えることを知らないルミラの魔力から生み出される必殺高速スライダー! 「うあぁっ!」 その闇の刃ならではの切れ味は健在! 切り裂くようにたけるの横を―― 「…ドンピシャ!」 「え?」 それは、ただ当てただけだった。 「何?」 その当てただけのボールが、弱々しくふらふらと。 「あ…」 ネットを越えて、綿毛のようにふわりと降りた。 ぽぉん……… 「ゲーーーーーーームっ! アンド、マッチ・ウォン・バイ、川越、長瀬組! ゲームポイント、7−6! タイブレークポイント、10−8!!」 「…勝った…?」 ただ一言呟いて、その場に崩れ落ちるたける。 「たけるさんっ!」 既に飛び出していた電芹がたけるを抱きとめる。 あのとき、たけるの横をすり抜けたかのように見えたスライダー。 たった一瞬。完全に心理的に無防備になったルミラと神凪のまさに完全心理死角に、 まったく目立っていなかった祐介が、そこにいた。 ただ、当てただけ それだけでよかった。 祐介は、なんとなくパターンに気づいていた。 別に高速スライダーの秘密に気づいた訳でもない。 ただ、神凪から繰り出されるボールを返したその次のルミラの一撃は、 ほぼ間違いなくスライダーが来るだろうことに。 結局、それが勝因―― いや、今、彼女の大好きな親友の腕の中で眠ってる、 その彼女の想いが、すべてだったのかもしれない。 川越たける×長瀬祐介組…2回戦進出! 神凪遼刃×ルミラ・ディ・デュラル組…1回戦敗退。 ============================================== どおもお、YOSSYです。 ゆかり:こんばんは、広瀬ゆかりです! よっし:何時の間にかのこの激突、やっと決着つきましたっ! ゆかり:たけるさん、神凪さん、本当に申し訳ありません。 作者に構成能力がないばかりに、13章からずるずると。(深々) よっし:(否定できない) ゆかり:で、今作のコンセプトは? よっし:『たけるvsルミラ、女の闘い!』 ゆかり:…ホント? よっし:嘘はついていないつもりだが。 とにかくも、今作で、気迫や闘志といったものを感じてくれたら幸いです。 ゆかり:で、次は当然… よっし:そ、”そしてその後戦いすんで”ですね。 それでは今日はこのへんで。失礼いたします。 ゆかり:珍しく無難に終わったわね…