この世界に、もし、『永遠』というものがあるとすれば、 俺は、あのころの永遠を求むかもしれない―― 試合コートから少し離れた、生徒もあまりとおらない芝生に、九条和馬はいた。 昔馴染んだラケットを手で弄びながら、彼は物思いに耽っていた。 彼のパートナー、河島はるかは、今頃更衣室で更衣をしている。 凄まじく時間にルーズな彼女だが、そのあたりのところも、既に盛り込み済みであったりする。 傍目には、”優勝候補ナンバーワン”といわれている二人。 しかし、和馬にとって、そんなものはどうでもよかった。…わけではない。 菅生誠治の呼びかけに呼応して集まった一部の3年生集団。 彼らが目指しているものは一つ。 『思い出作りのための優勝、そして賞品獲得でさらなる思い出を。』 ポーン… ポーン… ボールをラケットで軽く弄ぶ。 「(………………)」 思いふける和馬。 彼とて普通の3年生だったりする。 同級生と共に何かに打ち込み、その結果に一喜一憂。 そして、同じ目的のために全力を尽くした仲間達と、泣き、笑い、そして、かけがえのない思い出を作る。 「(…はるかさん)」 一人ごちる。 『テニス』 彼らにとってその単語は、並みならぬ意味を持っていた。 和馬が憧れていた。 はるかが本当に好きだった。 今は亡き、”あの人”。 その”彼”が本当に愛し、和馬を、はるかを、巻き込んで。 ”彼”の一部と言っても過言ではない、”テニス”。 楽しかった。 そんなあの人について行くことが、かけがえのない時間だった。 ――突然だった。 ”彼”との別れ。 もう二度と会うことのない。 あまりにも突然の――別れ。 ―― 「あ。」 「…はるかさん。」 しばし思いふけっていた和馬の前に、はるかが現れた。 久々のテニスウェアは、なんともサマになっている。 ―― 彼らが楽しそうに繰り出す、テニスボールの弾む音がしなくなった。 ”彼”が永遠の旅路について数年。 はるかは、もう、あの軽快なリズムでボールを弾ませることはなくなった。 ―― 「さてと、練習しようか。」 「ん。」 人の少ない晴れた青空の下、綺麗に整備された芝生でウォーミングアップをはじめる二人。 綺麗な軌跡を描き、軽快な音を奏でる硬球。 ―― 痛ましかった。 心から好きだった最愛の兄の死。 と、共に、はるかがテニスを捨てたことが、和馬にとって本当に痛ましかった。 和馬も、はるかの周囲の人間も、そんな彼女を見るに痛ましかった。 それから、はるかがラケットを再び握るまで、まさに紆余曲折。 数え切れないくらいの過程と、数え切れないくらいの心の律動。…数え切れないくらいの心の触れ合い。 かくして、はるかはラケットを再び握った。 ――――そして、 和馬は思うのだ。 このテニス大会、はるかにあげたい贈り物。 『テニス』 この単語にまつわる思い出に、いい思い出を加えてやりたい。 ”彼”の出来事を忘れられる訳もないし、忘れさせる気など毛頭ない。 しかし、 それだけでは、あまりにも寂しすぎやしないだろうか。 優勝する。それだけの実力も自分達にはある。 誠治の企画した”思い出作り”。 はるかのために、一枚噛む決意をした和馬。 歓声の渦巻く中、コートに一歩を踏み出す。 かつては二度と踏み込むことはないと思っていたコートに、しっかりと一歩を踏み出す。 対戦相手の橋本と来栖川芹香の姿が見える。 彼らも、”思い出作り”の同志ではあるが、…手抜きはしない。 全力で闘うことこそ、礼儀なのであるから。 「ん。」 もう、迷いはない。 好きな人の舞台で闘える嬉しさを胸に、 はるかの短い激に送られ、和馬は大きく、大きく振りかぶった―― どさっ。 「…あ、脈がない。」 橋本×来栖川芹香組…2回戦進出! 九条和馬×河島はるか組…和馬、吐血による失血KO。 ============================================== ごしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです! えっと、今作のコンセプトは、『河島はるかを包む絆』…なんですが、 表現出来たでしょうか? よっしーは用事があってこられないそうですが、 意見質問など、容赦なくどんどんぶつけてやってください、いやホントに(深々)。 次回は、ルミラ戦その後と、まだしていない試合を入れようと思います。 呆れないで見てやってください。(べこり) 九条和馬さん、今大会へのご参加、誠にありがとうございました。