Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第24章 「浩之の焦燥」  投稿者:YOSSYFLAME

「おーきにぃ!  まいど〜!」

コートからわずかに離れた中庭。
第二購買部や試合の合間を縫って経営している屋台組のなかに、少し異色の屋台があった。

『お好み焼き』

口笛を吹きながらお好み焼きを作り、客が来ようものなら威勢のよいキップで迎え、
身体全体で動いているという表現がぴったりの小柄なメガネっ子。



彼女の名は”猪名川由宇”といった。



「んー!  絶好の稼ぎ時やなあ!」
高く澄み切った空を気持ちよさげに眺めている。
「テニス大会って、それにしてもごっつ客が来てるやんなあ〜」
感心したみたいに呟く由宇。
「ウチも一段落ついたら見に行こかな?」
その時、



ワアァァァ………



「ん?  なんや?  かなりの盛り上がりやなあ?」
コートの方からただならぬ歓声がここまで聞こえてくる。
「むぅ。行きたいけどなあ…
屋台ガラ空きにするわけにいかんし…、…をっ!」
傍観していた由宇であるが、何かを見つけ目が輝く。
それはまるで獲物を捕らえたハンターのように。

次の瞬間、何も言わずに屋台から飛び出し、
数刻後に”獲物”をとらえ戻り、そして再び出ていった。
「悪いなぁ、ちと見といてや〜!」
もちろん目的地は、歓声響くテニスコート!



「………むぅ!  なんでこのあたしが温泉パンダの屋台なんか見張ってなきゃいけないのよぉ!
あたしだってコートに行こうと思ったのに!」



活動的な服装をしている小柄で小動物的な印象を受けるこの少女。
「きぃ〜〜〜っ!  むかつくむかつくちょおむかつくぅ〜〜〜〜っ!」

名を”大庭詠美”といった。





「はっ、はっ、はっ、はっ…」

息を切らしながらもなんとか目的地に着いた由宇。
「詠美には悪いことしたなあ…、…でも、ま、ええか!  あとでタコ焼きの1コでもおごったろ!」
多分良心の呵責はこれっぽっちも感じてないだろう。
「さて、どーなっとるかな…」
そこで由宇が目にしたものは――



「なんやあの子、ボロボロやないか!」
由宇の目の先に写った小柄な女の子。
そう、ここはCコート。
第5ブロック2回戦第1試合・猫町櫂、雛山理緒組vsレッドテイル、アイラナステア組の試合。
ボロボロになっているのは、小柄で癖っ毛の女の子。そう、雛山理緒その人。
ウェアもスカートも土で汚れまくっていて、まさにボロボロ。
しかし、その目はとても負けている選手の目ではなかった。

「――リーオ!  リーオ!  リーオ!  リーオ!」

そして、先程から観衆の中で誰ともなく巻き起こる理緒コール。
「…一体、どうなっとるんや?」



「レッドさん…」
「大丈夫さアイラナ、これ以上好きにはさせない…!」
対照的に苦しそうな様子なのは、対戦相手のレッドテイルとアイラナステア。
「せえっ!」
レッドの強烈なサーブが放たれる!
何度かのラリーの後、猫町がショットでバランスを崩した!
「くそう…今度こそ、今度こそっ!
喰らえぇぇぇぇぇ!  ガンブレイドショットーーーーーーーーーーーっ!」
レッドのガンブレイドショットが完全に猫町を抜き、オーブンスペースに放たれた!
「(よし!  今度こそ!)」
その時!



「りゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ぱあぁぁんっ!



『か…返したぁぁぁぁぁぁ!  またも、またも、雛山選手、レシーブで防いだぁぁぁぁぁぁぁ!!』
すでに絶叫モードの緒方理奈。
ずべしゃあっ!
当然完璧に抜けるはずの球を返したのだ。バランスを崩して転倒する理緒。
そして、ボールは中空高く上がっている!
「アイラナぁ!」
「はいっ!」
そのボールの側にいるのはもちろん、飛空能力必須の天使・アイラナステア!
「今度こそ、今度こそ決めます!」
すぱぁぁん!
アイラナの宙空ボレー!
今度こそ、今度こそ決まったはず!



「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!」
すぱぁぁぁぁんっ!



なんと、またも、またも、まるで逆方向からのボレーをもしっかりレシーブ!
「くうっ!」
すっかり呑まれているレッド、あわてて飛んできたボールを返すが、
ぱああんっ!
猫町のトンファーショットに阻まれる。
「ゲーム!  猫町、雛山組、5−0!」



「しゃ!」
小さくガッツポーズをとる小さな巨人・雛山理緒。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
観衆のノリは限りなく最高潮に近づきつつあった。

「信じられないな…」
「ホントに…」
暗躍生徒会の二人、健やかと太田香奈子も驚きを隠せない。
「僕らとやったときの強さじゃないねえ…」
「そうですね…、なにかすごい気迫を感じます。」
「一体、彼女に何があったんだろうか…?」

「雛山さん…」
「すげえ…、すげえよ理緒ちゃん、本当にやっちまってるよ!」
藤田浩之と神岸あかり。
1回戦、レッド、アイラナ組に不覚を取ったのだが、

”絶対にカタキはとるからね!”

彼女にしては珍しく熱がこもってはいたとは思ったのだが、まさかこれほどとは…



『さあ!  あと1ゲーム!  あと1ゲーム、ノーポイントに押さえれば、
なんと、ラブゲーム。つまりパーフェクトゲームで勝利を収められます、猫町、雛山組!』
「あと1ゲーム!  あと1ゲーム!」
観客から”1ゲーム”コールが巻き起こる。

「お前らしっかりしろ!  このままパーフェクトを許す気かぁ!!」
「そうだ!  まだ1ゲームある!
パーフェクト阻止なんてせこいこと考える前に、ここからの逆転でも狙ってみやがれ!」
Yinと、それに冬月まで精一杯の応援を送る。



しかし、理緒の鉄壁の守備と、猫町のそつないショットにより、
レッド組は、ついにあと1球と追い込まれてしまったのである。



「あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!」
会場割れんばかりの大歓声。
ボロボロになりながらも闘気充満の理緒と、目立たないながらも彼女をしっかりサポートしている猫町。
対して、あらゆる手を理緒の防御網に阻まれ、もはや打つ手無しのレッドとアイラナ。
その顔にも悲壮感が漂っている。
理緒からのサーブもなんとなくけだるげに返すレッド。
既にアイラナも中空にいず、地上でのみ闘っている。

「………むかつく。」
「浩之ちゃん?」
「なんか、むかつく…」

猫町組の弱点は、これといった決め手がないこと。
故になかなか最後の一点を奪うこともできずに、ラリーを繰り返していた。

しかし、それにも終わりが来る。
ついに、猫町のトンファーショットが、オープンスペースの隅めがけて放たれたのだ。
沸き上がる観衆。
完璧なピンポイントをついたショット。
「(…パーフェクト、負けか…)」



「レッドぉぉ!!  取りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



それはレッドが試合を投げた瞬間だろうか。
それとも、浩之の声が耳に届く瞬間だったのだろうか。
いや、それよりも前のことだっただろうか。



ぱあぁぁぁぁん……



絶対無理、なボールを、レッドテイルは返したのである。
ボールはふわふわと宙空を漂っていた。
しかし、猫町、理緒とも、反応できない。
完全に決まったと思ったショットを、よもや返されたのである。
そして、ボールはゆっくりと、初のポイントを刻むために――



すぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁん…



ギリギリで反応した理緒。
最後の最後まで、かろうじて緊張の紐から、一本だけつながっていた緊張の糸が、
理緒に、起死回生のレシーブを放たせたのである。

そして、今度こそそのボールは、レッド陣内にふわりと落ちたのである。



うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!



ついに成し遂げたパーフェクトゲーム達成。
滅多に見れないこのシーンに観衆はボルテージ最高潮。
「レッドさん…」
アイラナが心配そうに駆け寄ってくる。
「…やられちゃったな。」
悔しさの欠片もないような笑顔でアイラナに応えるレッド。
そんなレッドを見て、心底よかったと思ったアイラナ。



「雛山先輩。」
試合終了の握手で不意に声をかける。
「…今度がもしあれば、その時は負けませんよ。」
そんなレッドの笑顔の挑戦状を、
「うん、ありがとう!」
理緒は、レッドの手をしっかり握りながら、受けて立ったのである。



「ねえ、浩之ちゃん。」
「ん?」
「やっぱり浩之ちゃんって、かっこいいよね。」
「何を当たり前のことを。」
そう茶化す浩之も、やや照れ気味だったりする。
「後で理緒ちゃんに謝らなくちゃならねえんだぞ、俺…」
げっそりとした顔を一瞬垣間見せる。そんな浩之の顔につい笑ってしまうあかり。

「浩之ちゃん。」
「ん?」
あかりに袖を引かれ、ふとコートに目をやると、
「…け、そんなことしなくたっていいっての。」
浩之の目線の先で、彼に向かって深々と頭を下げているレッドテイルの姿。
そんなこと無用のことだと思いながらも、浩之は、彼のほうに右手をさっとあげていた。



      猫町櫂×雛山理緒組…3回戦進出!
      レッドテイル×アイラナステア組…2回戦敗退。




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どおもお、今日はダブルヘッダーのYOSSYです!

ゆかり:よっぽどあなたヒマなのね、よっしー。
        こんばんは、広瀬ゆかりです!
よっし:うるさいな。こんなときくらいあったっていいだろが。
ゆかり:それはいいとして、2回戦最初の試合、コンセプトは?
よっし:「ただのパーフェクトで終わらせたくはなかった」です。
ゆかり:なるほどね。よくパーフェクトとかって騒がれるけど、
        やった人がいるってことは、やられた人がいるってことだものね。
よっし:そゆこと。
        単純にパーフェクトいうけど、色々なまわりの心境があるはずなんですよ。
        それを少しでも表現出来ればと。
ゆかり:それにしても、雛山さん強いわよね。
よっし:目立たないけど、彼女の基礎体力は並じゃないよ。
        彼女の生活見ればわかると思うけど。
ゆかり:そうね…
        というわけで次回は?
よっし:1ブロック第1試合と7ブロック第1試合、よろしくお引き立て願います!
ゆかり:あなた昨日から妙にハイね…