Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第26章 「まだ勝負はこれから」  投稿者:YOSSYFLAME
――2回戦開始数分前・Bコート。

「おっしゃ!」
コートから少し離れたところで準備をしているXY−MEN組。
「よっしゃ!  じゃ、次も軽く勝たせてもらうか、弥生…いや違った、レディー・Y。」
実際はそんなに楽な試合でもなかったのだが。
今でも少し、1回戦で食らったボールのせいでやや腹がうずいている。
「次はあれだろ?  工作部の魔球野郎だろ。
よっしゃ、そんなもんが俺らに通用しないことを見せつけてやらあ!」
相変わらずの調子で意気込むXY−MENだが、
対していっこうに黙して語らないレディーY。
「どした?   何か心配事でもあるのか?」
「心配事はありません。強いてあるとすれば、あなたの向こう見ずな姿勢が心配です。」
「あ、相変わらずキツイな〜」
苦笑いするXY−MENだが、レディーは彼ほどこの試合を楽観視していなかった。
何せ相手は、XY−MENとやや似ているプレイスタイルのエビルを
正面から攻略して勝ち上がってきた相手なのであるから。





「よし!  まずは保科君に八希君だな、
相手は強敵だが、勝てない相手じゃない。目一杯撹乱してやれよ!」
「まかしとき誠治さん!  ウチらのコンビネーションをもってすれば、なんてこともないわ!」    
工作部プラス、柏木梓や橋本、来栖川芹香など全員集合のたたずまいである。
その工作部軍団の中で、2回戦先陣を切るのが、八希望、保科智子のペア。
そして、誠治の激励に力強く答える智子。
「なんせ私らには、1回戦にすら出さなかった魔球がまだまだあるんやからな。
篠塚先生のド肝ぬいたるわ!」
同じ参謀タイプだからであろうか。(最も智子の場合、口より先に手が出そうだが)
対戦相手の篠塚弥生にかなりのライバル意識を抱いている智子。
(もうすでにレディー・Yとしての認識は霧散してしまっている)
そんな闘志むきだしの智子をただ静かに見つめている八希。
「さて、行こうか智子さん。」
しかしながら、彼自身もかなり気合が入っている様子。




「サーブ!  XY−MEN、レディー組、…プレイッ!」

「うりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドキャッ!
試合開始と共に吠えながら強烈なサーブを放つXY−MEN!
轟音を立てながら迫り来るボールに、
「しゃらくさいわあっ!」
パアアンッ!
すでに気合十分。智子の意地と気迫のリターンが返ってくる。
スパンッ!
そんな智子の気迫に決して流されること無く、的確にボールを返すレディー。
「よっしゃ!  行け八希君!」
「はいっ!」

ぱあぁぁぁぁぁぁぁん!

レディーのリターンを、遥か高いロブで返す八希。
いや、これはただのロブじゃない!

「大飛球・神戸ランドマークタワー、受けてみろぉ!」

限りなく回転を殺したボールを限りなく高く高く上げるこの技。
そうなると落下時には、空気抵抗をモロに受けたボールが
ゆらゆらと、野球で言うナックルボールのように、さながら分裂しながら落下してくるように見える。
「な、なんだこりゃあ!?」
観客席では散々見たが、実際目の当たりにしてみるとこれほどのものなのか。
まるで”ファントム”のようにゆらりゆらりと落下してくる魔球。
「くっ…これくらいどってことあるかぁ!」
「どいてください。私が打ちます。」
「なっ!?」
なんとか打ち返そうとして四苦八苦しているXY−MENを制止して前に出るレディー。
ボールが今にも彼女の頭上に到達する頃。

すうぅぅぅーーーーーーーっ
レディーがそっと息を吸いこみ、そして!

すぱぁぁぁーーーーーーーん!
しなやかな身体がバネのように跳ね上がり、的確にするどくボールをとらえた!

「なっ!?  なに!?」
驚嘆の智子の横を綺麗に抜いてくるリターンボール。
「…あ、あんなにあっさり返せるもんなんか?」
そんな智子の方を一瞥して一言。
「1回戦、見せていただきましたので。」
それだけを言って戻ってゆくレディー。
「いや、見せていただきましたって…」
そりゃ、1回戦で偵察されていることもあり、そのうち破られるとは思っていた。
しかし、しかし、たった1球で打ち返されるとは…
「ふふふ、おもろい。
そうでなきゃおもろないなあ!  なあ八希くんっ!」
「…ですね。」





――Aコート、第1ブロック2回戦第1試合、皇日輪、エリア・ノース組vs四季、柳川裕也組。

「弧月ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇつ!」

ずばしゃっ!
「ぐは…」

「ゲーム!  皇、エリア組、2−0!」

カラカラ…
柳川がラケットを思わず落としてしまう。それくらいの破壊力を持っている
法力僧の得意技”弧月”。
本来は、敵の動きを封じ込める目的の技ではあるのだが、
皇のアレンジにより、封印系を放出系に切り替えることに成功。
つまり、弧月をラケットに封じ込め、撃ち込む瞬間に思いきり放出するのである。

「えーーーーーーーーいっ!」
すぱんっ!
そして、あいかわらずエリアの運動能力は、四季にも引けをとらないものをもっている。
四季のパワーショットをことごとくしっかりリターンして、堅実に後につなげている。
どんっ!
柳川のパワーリターンが飛んできたとしても、
もともとが封印系の弧月にはなんてこともなく捕らえることができ、そして、
「弧月ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
一気に法力を放出する。
「くっ…」
それでもいつもいつも弧月で敗れている四季でも柳川でもない。
苦しみながらもなんとかボールを弾き返す二人。
が、
「りゃあ!」
どんっ!
一体何時の間に追いついていたのか、皇のボレーが炸裂!
四季と柳川の間を抜くように決まる強烈なショット!

「ゲーム!  皇、エリア組、3−0!」



「よっしゃあ!  いーぞ、エリア!」
観客席から応援している勇者三人娘の残り二人。ティリアとサラ。
そして、彼女らと共に観戦している幻八。
「ねえ、すごいよね、エリア。
このままだと優勝しちゃうんじゃないかなあ〜」
などと、当のエリア以上に浮かれているティリアだったりするが、
対照的に、幻八とサラの表情は芳しくない。
「なあ、うまく行き過ぎてると思わないか?
いくら皇とエリアが強いったって、相手はあの四季と柳川先生だぞ?」
「ああ、同感だね。
あの二人の目。よくアタイが見て来た目だよ。隙あらば食い殺してやるって眼だよ、あれは。」
そんな二人の危惧をよそに、おせおせの快進撃を続ける皇組。
「(気をつけろよ、皇、エリア。)」




――再びBコート。

レディー・Yの活躍などで、第一ゲームは先取したXY−MEN組。
しかし、まだまだこれからと言わんばかりの八希組。
周囲の喧燥をよそに、第二ゲームが始まった。
智子のサーブからの執拗な攻撃に、さすがに閉口するXY−MENとレディー。
一転して粘りのテニスに切り替えてきた八希と智子の壁は、XY−MENの豪打でも簡単には破れない。
逆に鋭い打撃に脅かされるXY−MEN組。
「なろぉ…魔球破られた分際でしつこいんだよっ!」
どきゃっ!
XY−MEN、気迫のストロークが八希を襲う。
「!?」
その刹那、八希の口がニヤリと形変えた。

「何笑ってんだてめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
返ってきた八希のリターンにしっかり反応しているXY−MEN!
「無駄なんだよ!  
せめてこの一撃で引導を渡してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



バキッ!



「な…?」
声を上げたのは、八希ではなかった。
XY−MEN渾身のショットは、スイートスポットにぴったり当たって
奴等に引導を渡せるかと思ったショットは、
なんとラケットのワクにあたって、ネットにボールを引っかけてしまったのである。

「なんだ?  今のは一体…?」
「…S・F・F(スプリット・フィンガー・ファストボール)ですね。」
「すぷらいとふぃんがーふぁーすとぼーる?」
何かが違っているXY−MENをとりあえず棚上げして、智子の前に進み出るレディー。
「野球で言うフォークボールに比べると、落ち具合はやや甘い。
ですが、ほとんどストレートで変わらないスピードからわずかに落ちてくる。
…相手のミスを誘うには、これ以上もない絶好球。」
「ご名答やな。さすが篠塚先生や。」
「私は仮面のテニス美女プレイヤー、レディー・Yです。」
「…いや、それはどーでもえーけど。」
「どうでもよくありません。」
「ええい、とにかく!
私らの新魔球・スプリットを見抜いたのは誉めたるわ。だけど、見抜くだけじゃどうにもならんで?」
そういって向こうに戻って行く智子。
「これを破らんことにはなあ!」
そうして再び始まるゲーム!
数回のラリーの後、八希のストロークが飛んできた!
「私に任せてください。」
俊敏な動きでネット前につめるレディー!

「なるほど、そう来たか。…でも!」
智子が呟いた瞬間!

ぱさっ…

なんとボレーに行ったレディーの目の前で、軽くストンとボールが落ち、
そのままラケットの当たりそこないがネットに引っ掛かってしまったというていたらく。
「ってなわけや。
スプリットは、どこにでも落とせるように特訓したからな。
悪いけど、ボレーを狙えばええってわけやないで♪」
得意満面の笑みを浮かべる智子。
まさにこのスプリットで、両者の勢いは逆転しつつあった。





――再びAコート。

「はあ、はあ、ぜえ、はあ…」
「…皇さん、大丈夫ですか?」
さすがにあれほど法力を使えば、心身ともにボロボロになることは否めない。
すでにグロッキー状態になっている皇。

どんっ!

「!」
皇が休む間もなく、柳川の強烈な一撃が迫ってくる。
「くっ!」
それをなんとか弾き返すが、
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ぱあぁぁん!
四季の強烈なリターンにより、ポイントを奪われる。
「ゼッ、ハッ、ゼッ、ハッ…」
休もうにも休めない。
少しでも気を抜こうものならば、たちまち柳川と四季の津波のような攻撃に流されてしまうような気がしたから。
1ゲームでも取られてしまえば、この試合展開からしてあとは流されるのみだということを
皇は、強制的に脳裏に叩き込まれていた。

だから、どんなに疲れようとどんなにバテようと
手を緩める訳には決していかないのである。
「弧月ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇつ!」
ばんっっ!
「ゲーム!  皇、エリア組、4−0!」

「…そろそろ頃合いだな、四季。」
「ええ、長らくお待たせしましたっていう感じね。」



「「さて、狩るか。」」



ドンッ!
ドンッッ!
ドンッッ!
ドンッッッ!!

「――!
げ、ゲーム…  四季、柳川組、1−4…!」

俄かにざわつく観客。
なんと、突然眠りから覚めたかのよう。
全くの別人かと思わんばかりの豪球で、あっという間に1ゲーム取り返した四季組。
「くっ…なんのっ!
弧月ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇつ!」
皇の得意技、弧月が炸裂するが、
すぱぁぁぁぁぁんっ!
さっきまでとは違って、綺麗に返される!
まるで、返すことに特別なことなどないかのように。
しかし、そのリターン、打ち返せないものでもない!
打ち返されたボールを再び弧月で返す!

「(皇さん、大丈夫なのかなあ…)」
共にプレイをしているエリアも、かなり心配そうに皇を見ている。
しかし、されどテニス、たかがテニス。
負けたところで命取られる訳でもなければ、大切なものを失う訳でもない。
その心理的セーフティーさが、エリアの判断を誤らせた。

そう。すでに彼らは蟻地獄にはまっていたというのに。
弧月を連発しなければならないほどに、皇の精神は追いつめられていた。
そしてそれは、当然彼自身の法力を大きく削る結果となり、やがて、

「弧月ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇつ!  …な、なに!?」

バアアンッ!
皇のラケットが弾かれる。
そう。すでに皇の法力は、弧月を発動できないままに衰えていた。





「なんちゅうえげつない戦法だろなあ、最初から法力切れを狙っていたとでも言うんかい?」
「ええ、多分今までの皇さんの一打に要していたパワーを100とすると、
その100のパワーを返していた四季さんと柳川先生のパワーは、わずか20。」
試合を見ていて、四季組の戦略のえげつなさに呆れていたYOSSYFLAMEに
懇切丁寧に説明するとーる。
「って、待て、わずか20のパワーで100に対抗してたっていうのか?」
「ええ、”弧月”を返すだけなら、20で十分なんです。
当然ポイントを奪えるような威力じゃないですけどね。」
「それで、皇の法力容量が切れたとたん、100の力で潰しにかかったというのか?」
「その通りです。皇さんには残念ですが、後は…」



「嬲り殺しにあうだけだよ。
まったくセンセーは、とことん意地の悪い攻めをしやがる。」
観客席で見ていたジン・ジャザムは、ぽつりとそう呟いた。



――ハハ、全くざまあねえな…

皇日輪は、徹底的にぼろべろにされながら、半ば諦めの境地にいた。
もはや飛んでくるボールを返す気力すら残っていない。

――所詮は、この学園の鬼には、到底歯が立つ器じゃなかったんだな、俺は。

格が違いすぎる。
彼が今まで狩ってきた者達とは。
柳川裕也。
この男の持つ力の片鱗を、テニスの試合とはいえ、まざまざと見せ付けられた皇。

――もういいや。
もうどうにでもなっちまえ。
所詮、勝てる訳などなかったんだから。



ずべしゃあっ!



「いたたた…」
「え、エリアさん…」
皇が戦意喪失してる間にも、必死で勝つために努力しているエリア。
彼女とて、本気を出した四季の力ずくのパワーには、さすがに歯が立つわけもなく、
すでに白いウェアは、汚れまくってしまっている。
そう、皇が彼女に贈った、あのテニスウェアだったりする。



皇のなかから、なにかが吹っ切れた。

――何やってんだろ、俺は。
勝てないのなら、勝てるように努力すればいいだけの話じゃないか。
そう。今でさえ勝利を諦めていない、この娘のように。
別に今日勝てなくともいい。
しかし、いずれは――

「皇さん?」
「頑張ろう、エリア。」
それを思い出させてくれた彼女の肩にそっと手をやり、微笑みかける。
「は、はいっ!  まだ勝負はこれからです!」
ちょっと戸惑いながら、返事を返してくれるエリアに微笑み、柳川に向かい合う。

その目は、まごうことなく”鬼狩り”の誇りを取り戻した男の目であった。



      四季×柳川裕也組…3回戦進出!
      皇日輪×エリア・ノース組…2回戦敗退。




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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんばんは、広瀬ゆかりです!
よっし:さすがに疲れたな。ここんとこ連投だからなあ。
ゆかり:何いってんのよ。色々な面で頑張ってる人はたくさんいるのよっ。
よっし:確かにそうなんだよな。仕事とか勉強とか家の事とか、
        学園だけの話にしても、執筆とか、設定問題とか、他いろいろな目に見えないものに
        一生懸命な人はたくさんいるからな。
ゆかり:みなさん、本当にお疲れさまです。(深々)
よっし:まあ、自分の場合、できるところでやっとかないと、
        平気で一ヶ月二ヶ月は休載しちゃうからなあ…
ゆかり:…なんの自慢にもなってないわよ。
        で、次回は?
よっし:XY−MEN組vs八希組決着編!
        と、2,4,6,8ブロック2回戦第1試合のどれかです。
ゆかり:みなさん、よろしくお願いします。