Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第27章 「It’s All light!」  投稿者:YOSSYFLAME
Bコートでは、XY−MEN、レディー・Y組vs八希望、保科智子組戦が
今まさにデッドヒートを繰り広げていた真っ最中ではあるが、
その隣のAコートとCコートも、負けず劣らずの激闘が、
今、繰り広げられようとしていた――



――Aコート、第2ブロック2回戦第1試合、
              ディアルト、Dマルチ組vsとーる、宮内レミィ組

「さて、頃合いですね。」
シューズの紐をがっちりと結びながらとーるが言う。
「ハイ!  楽しみネ!」
彼のパートナー、宮内レミィは、
もう臨戦態勢バリバリで、今か今かと試合を心待ちにしている。
血の気が多いことうけあいであったりする。
「さて…」
その横で影のように佇んでいた女性、貞本夏樹が口を開く。
「ドーでもいいけど、ナツキ…」
「?  なんですか、レミィさん?」
「ここでまでニンジャみたいに気配を消してることないと思うネ。」
「うっ…」
思わず俯いてしまう貞本。
とーるとレミィはそんな彼女を不思議そうに見ている。

「…”草”の習性なんです。」

わざわざ改行まで使って答える貞本。
彼女ら”草”は、代々風紀委員長に仕える隠密で――
おっと、今はそれは関係なかった。
「と、とにかく、2回戦の相手のディアルト、Dマルチ両選手のことですが…」
話を本題に引きずり戻した貞本。とーるたちも顔つきが変わる。
「昨日のミーティングでもお話しましたが、
彼らの武器はディアルト選手の”圓明流倭刀術”をベースにした奇襲的なテニスがメインかと思われます。
彼の能力をDマルチ選手がカバーし増強させる。
ある意味とーるさんたちと似ているかもしれませんね。」
「ですね…」
とーるも頷く。
「ですが。」
と、貞本が続ける。
「もしかしたら、まだ秘策があるかもしれません。くれぐれもご注意ください。」
「わかりました。それだけ聞ければ十分です。」
「そうネ、サンキュー、ナツキ!」
軽く頭を下げる貞本。この人達なら大丈夫だろうと思いながら。
「それじゃ、そろそろ時間です。行きましょうか、レミィさん。」
「オーライ!」





「さて、2勝目をいただきにいきましょうか。」
こちらも気合十分のディアルト。
彼には目的があった。
第5ブロックのT-star-reverse、松原葵組の優勝をなんとしても阻止すること。
彼ら自身が優勝してしまった場合は、賞品の温泉旅行は、
来栖川警備保障の微妙な関係、へーのき=つかさとDセリオに譲渡するという
Dマルチとの約束があるので、それはそれでいい。
ただ、抜け駆けは絶対にさせまいとする、ある意味とってもストレートな感情が、彼を突き動かしていた。
「――行きましょう。ディアルトさん。」
相変わらずのポーカーフェイスのDマルチ。
2回戦の相手は、自分とよく似た能力の持ち主、とーるを擁する風紀委員会代表チーム。
はっきりいって、かなりやっかいな相手である。
しかしながら、彼女とて負ける気などさらさらない。
「――勝ちます。」
そうして、彼らも足を踏み入れる。コートという名の闘いの場に――





「ハアァーーーーーーーーーーーッ!」

ざきゅっ!
「ゲーム!  とーる、宮内組、3−1!」

試合は前予想通り、とーる組が優勢に試合を進めていた。
この試合の焦点は、破壊力で勝るレミィをどうやって押さえるか、だったのであるが、
格闘部きっての技巧派のディアルトをもってしても、
全身バネの身体から打ち出されるレミィのショットを止めるのは至難の業。
ましてテニスの経験もあるとくれば、これはかなりの強敵になる。

すぱーーーんっ!

男子生徒にも引けを取らない長身から繰り出されるレミィのショットがまたも決まり、
これで4ゲーム先取!
その差を3ゲームと広げ、逃げ切り必勝パターンに入った。




――そのころのCコート。
    第6ブロック2回戦第1試合、OLH、斎藤勇希組vsきたみち靜、雛山良太組

「ゲーム!  OLH、斎藤組、5−2!」

「うぬぬ…負けないぞ。」
「そう、その意気よ!  どんどんかかってらっしゃい!」
「いくよ!  ゆうきせんせい!」

「(まったく、とことん面倒見いいんだからな、勇希は…)」
半ば呆れるように、それでもなんとなく嬉しそうに、OLHは呟いた。



――
「しっかし、まいったよなあ…」
2回戦開始ちょっと前、OLHは頭を抱えていた。
次の相手は、よりによって彼とも関わりが深く、
可愛がっているお子様チームの、きたみち靜と雛山良太が相手。
1回戦の昂河、吉田ペアのように、相手にとって不足はない、というわけにもいかない。
しかも、

(「お兄ちゃん、しずかちゃんたちねえ、すごいひっさつわざかんがえたんだって!」)

そう、彼が悩んでるのはここだったりする。
手加減して勝てるのならば、彼はそこまで悩みはしない。
しかし、先程の笛音たちの試合を見る限り、
アレレベルの技を(どういうわけか)身につけているのは、なんとなく推測できる。
勝てる自信はある。
彼女らの出す技出す技全部を封じ込めれば、もともとの実力の差。楽勝できる。
が、なにもかもが自分達に及ばない子供たちが、それでも四苦八苦しながらも立ち向かってくる。
そんな子たちを相手に、それすらも摘み取って勝つのは、どうしても気が引けた。
だからといって、自分たちだって笛音とティーナへのプレゼントのためには、負ける訳にはいかないのだ。
「はあ…、ったく、どうすりゃいーんだよ…」

がちゃ。
「OLHくんっ!  いつまでボーッとしているの?」
「なんだ、勇希か。」
「?  どしたの?  ガラにもなく考えごと?」
「うるせえやい、ガラでもなくて悪かったな。」
「………。」

ひょい。
唐突に顔を近づけてくる勇希に、少しばかりうろたえるOLH。
「な…」
「…どうやら、ちょっとは本気で悩んでるようね。私に話してみなさいよ。」
「なんでお前に話さなきゃならんのだ。」
「………。」



ぐきっ。



「――!!!」
「話してくれるよね?」



「なあんだ、簡単なことじゃない。」
「…簡単…なのか?」
腕が変な方向に曲がっているOLHの疑問に、屈託のない笑みを浮かべ、

「全力でぶつかってあげればいいのよ。ややこしいことなんか考えないで。」

「…そんなもんなのか?」
「ま、見てなさいよ。
それよりも、そろそろ時間よ。さ、行きましょう!」



「(で、その結果がこれ…か。)」
勇希の言う通り、OLH組は、一切の小細工をせずに、真っ直ぐにぶつかっていった。
さすがに、きたみちもどるらの特訓を受けているらしく、
きたみち靜のスワンサーブ、雛山良太のバーチカルアタックなどの必殺技には、そこそこポイントを許してしまっている。
が、やはり地力はOLH組のほうが2枚も3枚も上。
その中でも、子供たちと共に、あくまで楽しもうとする勇希の姿勢。
それが、子供たちにとってもこのゲームを一層楽しいものにしていたのである。



「ゲーム!  アンド、マッチ・ウォン・バイ、OLH、斎藤組!  ゲームポイント、6−2!」



「うぬぬ、今度はまけないぞ。」
「そうそう、いつでもかかっていらっしゃい!」
「ゆうきせんせい、楽しかったよ!」
「うんうん、私も楽しかった!」
試合終了の握手のとき、慈しむような笑みを子供たちに向ける勇希。
そんな彼女をOLHは、なんともいえない表情で見つめていた。



「靜。」
「あ、ちちうえ…」
善戦した娘を迎えに、きたみちがあらわれる。
「ちちうえ、靜、負けちゃった…」
申し訳なさそうに俯く靜の頭を優しく撫でながら、
「靜…、全力で戦ったかい?」
「うん…」
「じゃあ、なにも気にすることはないんだよ。一生懸命やることが、何よりも大事なんだから。」
「ちちうえ…」
靜は、何も言わずに、優しい笑みを浮かべている”ちちうえ”の胸に、顔をうずめていた。



      OLH×斎藤勇希組…3回戦進出!
      きたみち靜×雛山良太組…2回戦敗退。





――再びAコート、第2ブロック2回戦第1試合。

「ちぇやあぁぁぁぁぁぁぁっ!  蹴撃刀勢ーーーーーーーーーーーーっ!」
バキャッ!
ディアルトの必殺・倭刀術で放たれたボールが、唸りを上げてとーる組のコートに襲いかかる!
「ノオッ!」
ガシュッ!
その軌道は、まさに超低空ショットと化し、レミィの足元を急襲する!

「はあっ!」
とーるの勢いのあるストロークでさえも――
「――直線弾道、座標軸、15:7…」
ぱんっ。
そのボールをDマルチが、全く威力はないショットだが、それだけに的確に返してゆく。
そして、最後にディアルト必殺の蹴撃刀勢で決めさせる。

「ゲーム!  ディアルト、Dマルチ組、5−5!」

さっきまで1−4でリードされていたディアルト組。
しかし、そのリードが、Dマルチが敵の能力を分析するために、あえてゲームを借りていたとしたら?
序盤の5ゲームで敵の特徴と癖を見破り、その弱点をこちらの得意技で打ち崩す。
敵のエース・レミィを丸裸にしたDマルチの戦略により、試合の流れは、すでに逆転していた。



「(あと1ゲームがなんとしても欲しい…そうすれば…)」
悩むとーる。
策謀の点でDマルチに先手を取られてしまった彼としては、なんとしても挽回しなければいけない。
しかし、レミィの癖やらなにやらが完全に見切られ、自身のストロークすら通用しない現状では、
はっきりいって手の打ちようがない。
今は幸いにも同点だが、この調子では、一気に突き放される公算が非常に高い。
「(…あと1ゲーム、なんとかとれさえすれば…)」

すぱあんっ!

そうこう言ってるうちに、再びディアルトの蹴撃刀勢が決まる。
「…………。」
自身の足元を滑るように決めてくるそのショットに、レミィもお手上げ…っていうか
なんか様子が変わって来ていた。が、

「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

どばきゃっ!
ディアルト必殺の蹴撃刀勢が放たれた!
「これでリーチもらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
――プチン!



「調子に乗るんじゃないネーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」



ばきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!

「…は?」
突如凄まじい咆哮をあげたレミィ、野獣のように猛ダッシュし、
なんと、蹴撃刀勢によって放たれたボールが、足元に沈む前、ワンバウンドする前に、
強烈に敵コートに叩き落とした!

「はー、はー、はー、はー…」
「(…あっちゃあ…、宮内さん、完全に狩猟者モードに入ってますねえ…)」
冷や汗だらだらのとーる。
確かに狩猟者モードのレミィは、身体能力の全てが飛躍的にアップする。
が、その状態でいることは、いつ暴走するやも知れぬ、期限がわからない時限爆弾を抱えてること必至。
「ぐるるるるるるる…」
なんか怪しい威嚇をディアルトたちに向けるレミィ。
そんな彼女の額から、非常に多量の汗が流れていることを考えると、
心の中で、理性と狩猟者の本能が責めぎあってるに違いない。
「…一刻も早く試合を終わらせないと…」
もはや別の意味で顔面蒼白のとーる。

「あ、あれがレミィさんの狩猟者モード…?」
こちらも顔面が強張っているディアルト。
なんせ、超低空ストロークという、いかにもレミィをイラつかせるようなショットを
作戦とはいえ、足元に連発したディアルト。
ある意味必然とは言え、やはり恐ろしいものがある。
「――なんとかこのゲームで、彼女の運動能力を計算します。
たとえこのゲームを取られたとしても、彼女の切り札さえ破ってしまえば、十分勝算はあります。
――ですから、できるだけ粘ってください。」
「…ああ、やってみるさ!」
こんなときにも冷静そのもののDマルチの言葉に、再び闘志を再燃させたディアルト。
しかし、

「ハァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

どきゃっ!
既に暴走一歩手前、狩猟者レミィの勢いは、誰にも止められる訳はなかった。
「ゲーム!  とーる、宮内組、6−5!」

――しかし!
「――計算完了です。
なんのかんの言ったところで、ベースは通常時であることには変わりません。
しかも、かなり彼女は打ち気。
少しじらしてやれば、あっというまに崩壊するのは間違いありません。」
「よし、わかった!」
最後の切り札、レミィ狩猟者モードでさえすでにその弱点を看破されたとーる組に、既に打つ手は残されていなかった。

が、

「(宮内さん…、本当に感謝します。
私が本当に切望していた1ゲーム。とってくださって本当にありがとうございます。
精神と本能との責めぎあい。本当にお疲れさまでした。
もう少し、もう少し辛抱していてください。――すぐ楽にしてさし上げます!)」



「サーブ、とーる組!」
審判の合図と共に、前に進み出ると同時に、ボールを上に投げ上げて――
シュパンッ!
どすっ!
「――え?」
反応すらできずにサービスエースを許してしまうDマルチ。

「あーっ!  あっきーと同じサーブっ!」
選手席で観戦していた川越たけるが大声で叫ぶ。
そう。彼は彼で、秋山版とは若干フォームの違いがあるが、
まぎれもなくジャンプサーブの使い手だったのである。
高さは秋山には若干劣るが、滑るような切れ味のあるサーブが、ディアルトの足元に決まる。

「――分析完了。」
たった2球で分析を終了させる。かなりハイヒートのDマルチ。
しかし、バランスを崩し、ボールを打ちそこなってしまうとーる。
「――ふう。」
安心したDマルチの横に、ボールがふらふらとだが、紛れもなく通り過ぎていた。
「――え?」
珍しく狼狽した(ように感じた)Dマルチに笑いかけるとーる。
なんと彼は、バランスを崩した振りをして、ボールが地に落ちるその瞬間、振り切ってボールを運んだのである。



「マッチポイント!」



――私が止める。
このまま終わらせはしない。
我が目的のため。そして――

傍らのDマルチをふと見やるディアルト。

――そんな私に惜しみなく協力してくれた、彼女のために。



「これが最後です!  ファントム、テイク、オフ!」



「何…っ!?」

――消えた――!?



――そして、ディアルトが我に返ったときには既に、ボールは彼の遥か後ろに跳ねていたのである。



      とーる×宮内レミィ組…3回戦進出!
      ディアルト×Dマルチ組…2回戦敗退。






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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんばんは、広瀬ゆかりです!
よっし:で、今作は、Bコートで死闘を繰り広げてる横で
        それに勝るとも劣らぬ死闘を繰り広げている2試合にスポットを当ててみましたっ!
ゆかり:それはそうと…
よっし:ん?  どした?
ゆかり:私たちの3回戦の相手がとーるくんとレミィか…、はあっ…
よっし:ま、なかなかやっかいな相手になることには間違いないわな。
ゆかり:それもそうだけど、3回戦、風紀委員会同士の潰し合いになるのよっ…
よっし:ディルクセン先輩あたりが陰で笑ってそうなシチュエーションだなあ。
ゆかり:茶化さないでよっ…、はあ…
よっし:ま、俺には関係ないし、だいたい、俺らが勝ちあがれば、の話だろ?
        お前は寝てたからわからないだろうけど、
        2回戦で当たるたけるさんたちは、ちょっと侮れないぞ。
ゆかり:わかってるわよ。仮に私たちが勝てば、の話をしてるのよ。
よっし:ま、とりあえず悪夢(ゆめ)の対決目指して頑張るとするか!
ゆかり:はあ…、で、次回は?
よっし:とーる組vsディアルト組戦その後、そして、XY−MEN組vs八希組決着編!
ゆかり:そういうわけで、よろしくおねがいします!




とーるさん、きたみちもどるさん。今大会への出場、誠にありがとうございました。