「せ、セリス先輩、そんなに急がなくても…」 makkeiの抗議も耳に入らないかのようにDコートに向かうセリス。 うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 「何! 試合はどうなった!?」 観客の隙間を分け入ってセリスが見たものは―― しゅぱあぁぁぁーーーーーーーーんっ! 『速いっ! なんという速さか! 柏木楓選手、信じられないスピードで縦横無尽にコートを舞っているっ!』 ゲームは3−3の、両者互角。 しかし、突如覚醒した楓のスピードは、言語を絶していた。 「くっ! そこだあっ!」 ドバキャッ! 岩下の炎を纏ったラケットが、凄まじい勢いでコートを切り裂く! しかし、そこには西山の姿が! 「喰らえ! 超級覇王デンパ弾っ!」 岩下の放った常軌を逸した威力の豪球を、なんと気を巻いたラケットで弾き返す西山! シャオンッ! 目にも止まらぬ西山のショット! しかしその前には、瑞穂の姿が! 「藍原君、危ないっ!」 「きゃっ!」 岩下の声でなんとかライナーをかわした瑞穂。 そのままボールはコートに突き刺さる! 「アウト! アンドゲーム! 岩下、藍原組、4−3!」 「ちいっ!」 歯噛みする西山。 瑞穂の試合展開を読み切ったナイスなポジション取りによって、 岩下組は、かなりのアウトポイントを奪っているのである。 力がなくとも、相手の力が圧倒的でも、相手を自滅させられる方法などいくらでもある。 瑞穂の柔よく剛を制す的頭脳プレイに沸き立つ観衆。 …しかし、このまま黙ってる西山組ではない。 「はあっ!」 ぱああんっ! 楓のラインギリギリからのショットが瑞穂の上を通って、きっちり叩き込まれる。 なにせ突如覚醒した楓の俊敏さは、他の追随を全く許さない。 まさしく蝶のように舞い蜂のように刺す、キレのいいプレイで西山を懸命にアシストする。 「SS不敗は王者の風よおっ!!」 ギュロロロロロ……… ドスッ! 「ぐっ…!」 西山の砲弾ライナーが、岩下のどてっ腹にモロに叩き込まれる。 「万事是格闘に通ず! 庭球とて例外ではないわあっ!」 「喰らええっ!」 ドシュッ! 岩下の渾身のリターンが、西山の反応、楓の俊敏さすら凌駕しコートに突き刺さる! 焼け焦げるような高速リターンは、まさに圧巻。 そして、5−5の全くの互角の状況で、ついに伝家の宝刀が抜かれたのである。 「SS不敗流庭球術奥義・虎牙弾撃翔!」 西山の咆哮と共に放たれたボールは、岩下のラケットをも軽々と吹き飛ばし、そのまま壁に突き刺さった! グシャアッ! めり込み、崩れ行くコートの壁。 「どうた岩下信! この俺の奥義、とくと見たかあっ!!」 うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 西山の雄叫びに揺れる大観衆! 「さて、XY−MENさん、どう見ます?」 「…ま、破壊力は比類無いだろうな。まさに奴の気力そのままの技…」 「だよねえ〜、さすが兄様って感じよね。 SS不敗流の特徴の一つは、体内の気を自由自在に操れる事。 まして兄様レベルの気の使い手だったら、 スイートスポットに膨大な気を集中させ豪球を打ち出す事など造作もない…」 「EDGE…。 ならお前なら、西山の虎牙弾撃翔を破ることができるというのか…?」 「やってみなくちゃわからないわよ。…お互いにね♪」 愛らしい笑みをXY−MENに投げかけるEDGE。 相変わらず不敵な女だな… XY−MENはなんともなしにそう思った。 ビシイイッ!! 「「なっ!?」」 突如の轟音。 西山のコートに白煙が噴き出していた。 西山の虎牙弾撃翔を目の当たりにしたまさにその直後に、今度は別の強大な力がコートを疾った。 数瞬静まり返る会場。 その力の主に気づくまで、随分と長い時間が経過しているようにも感じた。 『い、岩下選手…、今の技は…?』 「…必殺・気砲弾。」 おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 沸き上がる会場。 まさに必殺技のオンパレード。 その中でネットを挟み睨み合う西山と岩下。 「またけったいな技を編み出したもんだなあ、岩下の野郎… なあ、セリス?」 驚愕半分、興味半分で岩下のショットを見ていたジン・ジャザム。 傍らのセリスに話を振る。 「そうだな。あれを崩すには、並みの腕じゃ無理だ。 ラケットを気の力で硬質化させ、その名の通り、大砲のような信のフィニッシュショット。 西山とてアレを完璧に破るのは至難だな。」 「ほー…」 セリスの解説を、しかしながらジンは実に嬉しそうに聞いていたりしていた。 「喰らえぇぇっ! 虎牙弾撃翔ぉぉっ!!」 「行くぞ、必殺気砲弾!!」 二人の魔人の必殺技の応酬は熱く、どこまでも熱く続いた。 押され押し返し、 気がつけば、既にタイブレークにまで突入していた。 「うりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 バキイッ! 「せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」 ビシイッ! 全くの互角。 一歩も引かない両者の死闘。 しかし、 この試合、唯一にして絶対的な転機が訪れたのである。 「――雨?」 ザアァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! 「うわあっ。」 「キャッ!」 「すげえなあ、通り雨か?」 俄かにざわつく観衆。 しかしながら、雨の中でも両者、両チームの闘志は全く衰えはしない。 「いくぞ西山っ!」 バキャッ! 岩下の強烈なサーブがコートへ飛んで行く! 気砲弾や虎牙弾撃翔といえども連発して撃てるようなものではない。 かくして、四人による応酬が雨の中、熱く続いていた。 どちゃっ! この雨の中、高速で舞い続けていた楓、 雨のコートに足を取られるが、執念でボールを叩き込みリーチをかける。 しかし、強烈なレシーブで勢い余った楓は、コートの水溜まりに身体をのめりこませてしまう。 「楓、大丈夫――。」 ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! 体中の血が全て逆流するような感覚。 ”鬼”エルクゥの血が目覚める感覚。 SS不敗流という枷が外れ、”西山英志”になりゆく感覚。 ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! 「英志さん?」 ――楓。 ――――楓、楓、 ――――――――雨の中の楓、雨に濡れた楓、雨に濡れてウェアが透けた楓。 「英志さん、大丈夫ですか?」 寄り添う楓。 雨に濡れた透けたウェア。優しげな瞳。か細く儚い指がそっと――。 ――その時、 ――”枷”は解けた。 ゆらあ… 「…西山?」 「…西山さん?」 審判すら気づかない西山の異変。 わずかながら予感した岩下と瑞穂。 「…えっと、では、西山組、11−10からプレイ再開します!」 そして、その予感は見事に的中した。 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!! SS不敗流庭球術裏奥義・楓激ラブデンパ弾っ!!!!!」 鬼をも震わす咆哮から、信じられない砲撃が炸裂した! 「くっ! させるかあぁぁぁっ! 必殺気砲弾っ!!」 バチイィィィィッ!! 西山の咆哮弾を真っ向から迎え撃った岩下! そのラケットから強烈な紫電が舞う! 「ぬううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!」 「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」 バアアァァァァァァァァァァァァァァァンッ!! 「な…んだと…!?」 次の瞬間。 硬質化された岩下のラケットは、木っ端微塵に砕け散った。 「ゲーーーーーーーーーーーーーーーーームッ! アンド、マッチ・ウォン・バイ、西山、柏木楓組っ! ゲームポイント、7−6! タイブレークポイント、12−10!!」 うおわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! ボルテージ最高潮の大観衆。 力と力、執念と執念がぶつかり合った、凄まじい試合。 どっ……。 「!……英志さん?」 裏奥義に己の持ち得る全力を注ぎ込んで力尽き、その鍛えぬかれた肉体を愛する少女の膝に静める西山。 「…なあ、EDGE。」 「何?」 「何で西山の奴、暴走したにも関わらず、最後のショットは綺麗に撃てたんだ?」 「知らないわよそんなこと。 ただ、そうまでして、暴走を無意識にでも押さえてまでも、この試合、勝ちたかったんじゃないのかなあ?」 そう言ったEDGEの顔は、何故か嬉しそうに映った。 「…楓ちゃん。」 結果的に西山に膝枕をしてあげてる格好の楓に声をかける岩下。 「西山が起きたら伝えてくれないか、”また、闘おう”って。」 「…はいっ。」 はっきりと、楓はうなずいた。 「信さん、大丈夫ですか?」 最後のショットで傷ついた岩下の右腕を心配そうに見つめる瑞穂。 「ああ、大丈夫だよ。 結局、負けちゃったな。 最も、暗躍がらみのことについては、負けたって調べようや取り締まりようはあるんだけど、 …勝ちたかったなあ〜」 晴れやかな顔で悔しさを口に出す岩下に、そっと優しく寄り添う瑞穂。 「でも、いい試合でした。」 そっと呟く瑞穂の肩にそっと手をやる岩下。 「ああ、いい試合だったな…」 西山英志×柏木楓組…2回戦進出! 岩下信×藍原瑞穂組…1回戦敗退。 ============================================== どおもお、YOSSYです。 ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです! さて、今作のコンセプトは? よっし:作中を見てください(笑) ゆかり:おざなりね。 よっし:でもホント、どっち勝たせようか迷いに迷いました。はい。 この試合に限った話じゃないんですけどね。 ゆかり:でも、どっちかを負かせないと話が進まないからね。 よっし:でも、いつも言ってることですが、負けたからそれまでってことでもないですし、 再登場の可能性もありますんで、楽しんでくれれば幸いです。 ゆかり:で、次回は? よっし:夢幻来夢組vsHi-Wait組、そして、デコイ組vs秋山登組。 この2試合で一回戦は最後です! とりあえず見てやってくださいねっ! ゆかり:ということらしいんで、よろしくお願いしますっ。