我が横顔を照らせ煌めき(後編) 投稿者:ゆき
──我が横顔を照らせ煌めき──
                           〜「お祭り」でいこう!!〜

かち、かち、かち。
 時計は、辺りが喧噪に包まれ始めても時を刻み続ける。
かち、かち、かち
 そして順調なまま、針達は四時半を示した。
「とうとうはじまりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「みんなのお待ちかねぇぇ!!!お祭りだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 その瞬間、やぐらの上の2人──志保、葛田がマイク片手に空いている片腕をぶんぶんと振りながらそう
叫び、
「「みんなぁぁぁぁぁぁ!!!!騒ぐぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
 最後に声を合わせて怒鳴るように宣言する。それを聴いて──先ほどまでも随分な盛り上がりようだった
のだが──観衆達も思い思いの歓声を上げた。
「一番はじめの出し物はぁ──」
 そのムードそのままに志保が言い、
「────何とぉぉ!!!メタオ軍団大合唱だぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
 そして続けて葛田が叫んだ瞬間、一斉に観客達から騒がしさが消え、
「うぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 意味もなく半ばやけくそのように吼えながらやぐらの周りにメタオ達が集まってきた。

「うんうん、──始まったな…愚か者の宴が」
「ギャグモードでそれを言っても全く怖くないよ」
 メタオ達のすさまじい合唱がRuneと健やかにまで届いていたりする。──彼等は今、その祭りの会場
から随分と離れた場所にいた。もう既に彼等の「計画」は発動しているのだ。……多分。
「今更言ったって仕方ないわよ…」
 2人の会話を横で聴きながら、溜息をつく香奈子。
「……まあ、ともかくアイツ等はほっておいて──ほら、アンタの出番よ」
 そしてそれから、彼女の後ろにいる──ちょうどかげっていて顔は見えない──男を前に出るよう促すよ
うに肘でつつく。
「……本当に──いいのか?」
 その男は本当に躊躇っているようで、そう確かめた。しかし結局答えは変わらない。
「問題なし」
 彼は溜息を吐いた。
 罪悪感ではないが、何となく。
 そうしないと人間が疑われそうで。
 でも、結局彼は叫んだ。
「メガ粒子砲、発射!……ってぇぇぇぇーーーーーー!!!!!!!!!!!」  
 レッツ冬月艦長。
 彼の後方から、爆音とともに光線が噴き出した。

 上空。
 ニュートンやら何やら、ともかく偉人達の発見してきた法則を完全に無視したメタオ達が数匹、限りない
空からどうやってか吊されている。
「だぁぁぁぁ!!!おろしやがれぇぇぇ!!!!」
「んだっておれらがこんなことをぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!JRAに訴えてやる!!!!!!」
「それを言うならJAROじゃねぇかぁぁぁ!!!!!!?????」
 どっちも違うわ。
 で、そんなメタオ達を数秒後、粒子砲が打ち抜くことになる。
バーン、バーン
 お祭り開始の合図である……………。

「おっしゃぁぁぁ!!!!!しっかりおごれよぉぉぉ!!!」
「そ、そんな……」
 屋台の辺りで、ヤンキー初音にカツられているゆきがいるのだが、まあそれは良いのだ。
 お祭りなのだから、楽しければいいのだろう。

「はぁ……でも、どうして私…お手伝いから外されたのかしら…?」
「そりゃ、食事を作る屋台だから…」
 冷や汗混じりで、悩む千鶴に答えているジンがいた。
 
「オイ、ヤナガワ。コレハイッタイ…」
 やぐらから離れたところでは、ダリエリの的当てが行われていた。ちょうど、今はティーナが球を投げよ
うとしているところである。
「ククク……これでまた開発資金が…」
 全員の視線がティーナとダリエリに向かう中、経営者の柳川は貯まった小銭を数えて妖しく笑んでいた。
──まったく迷惑な話だが。
 そのよこで、
「悪、これは悪だろうどう見たって?」
「そ、そうかもね……」
 Hi−waitが七瀬彰に向かって脅すように叫んでいる。ということは誰も気がつかない。

 やぐらの前では。
 破壊されたメタオ数十匹と、無傷ながらも肩で息をしている由綺の姿があった。いけないな、歌手が疲れ
たと言っても腹式呼吸を忘れては。
 因みに、メタオは全て平手で破壊されている。
「これはやりすぎじゃないかな…」
 その光景を遠くから見ていたへーのきの呟き。
「……なんだか、私の歌が冒涜されているみたいで…」
 由綺はそう言うと、涙を流しながらばったりと倒れた。
 どうやら、メタオ達の合唱とは彼女の歌だったらしい…。

 金魚釣りの屋台では。
 水槽に西山が突っ伏していた。勿論鼻血だしまくりで。
(か、楓のゆかた…金魚釣りする楓のうなじ……)
 いつものことだから誰も慌てない。
 慌てるのは、楓とマールと、それと最近の転校生のディアルト、Yin、アイラナくらいなものだろうか
(ゴメンナサイ、使い方がよくわからない…)。

 知り合いの女の子でも近くにいないかと探していたYOSSYの肩を叩くモノがあった。佐藤昌斗である。
「やあ、どうしたんですか、佐藤さん」
 すると、佐藤は黙って指を──どこかの屋台の上に向ける。そこに──
「──…………」
 YOSSYは唖然とした。
 そこには、仲睦まじく(????)会話するDボックスと、メタオ改がいたのだ。
「珍しい組合せですね…」
 冷や汗とぎこちない笑みを浮かべ、佐藤は小声で言う。誰も答えないが…。
 あ、
 光君がその話を聴いて胸を撫で下ろしてる……(爆)。

「ハイド、そこで何してるの?」
 浴衣姿の綾香が、やぐらの下に潜んでいたハイドラントを見つけたのはそれから五分後のこと。
 ハイドラントは、這い出しながら言った。
「ふ……良く気がついたじゃないか…」
 格好いい科白と裏腹に、少しだけ無様だが…。
 そんなハイドラントを見て綾香は一言。
「鴉」
 と呟いた。
 確かに、ハイドラントの鴉はさっきから興奮気味で、やかましく啼いている。
「自分を壊してまで気を引きたいか、ハイドラント!!」
「正攻法でいきませんか…?」
 その後ろでは、悠朔と葉岡斗織がわたあめ片手に呆れていた。

 小ネタを出しているうちに、徐々に太陽は西に吸い込まれ、星達が煌めきを取り戻す。
 祭りは本番と相成った。
 盆踊りが行われ、勿論それはポケモンの名のだがそれは良いとして、未成年の飲酒は黙認されるし、だか
ら騒ぎはでかくなる。
 相変わらず耕一は例の三人に追い回され(多分、反射的に逃げるのだろうなぁ…)、浩之は四季に求愛さ
れ、セバスは芹香のボディーガードで、でもエーデルハイドは気がつかれない。いいな、幸せ者、多分こう
言うので騒ぎが起こらないのはあなたと、瑞穂ともう高気圧的な雰囲気を醸し出している岩下くらいなもの
ではなかろうか。
 そんな中でも苦労人も勿論いる。
 梓は屋台で忙しいし(一緒の秋山は嬉しそうだが)。OLHは…ある意味で幸せか、あなたは?由紀、美
和子はヒメカワ星人の生態調査に追い回されていた。そう、比喩ではなく。彼女たちがさり気なく出してい
る(しかも誰も気付かない!)触手に限りなく近いモノに。
 あかりは来栖川空製(Rune製作)パンチングマシーンでコンボ(何故だ!?)を炸裂させて最高記録
を叩き出していた。
 やぐらは志保のライヴに変わっていた。
 レミィはオイルの販売で一山当てていた。なんせ、メタオがたくさんいるから。
 タケダテルオは相変わらずDガーネットにフられていた。
 まさたはまさたた茶を屋台に出していた。
 ゆかたはかおりに引っ張り回されている。
 どうでもいいんだが疲れたからって話を壊すな、筆者!
 というレッドテイルの声が聞こえてきそうである。
 何故彼かというと、ご免、話のネタが……。
 疲れたところで、いよいよ見せ場を迎える。
 カラオケがようやく終わり、観月マナの声援も消えた頃、ようやく葛田が叫んだ。
「花火の時間だぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
 祭りももう、終わる。

「るーくんるーくん、時間だよ」
 健やかは、寝ているRuneにコショウをかけながら言う。勿論Runeは飛び起き、それを喰らうのだが。
「おおう、分かってる。取り敢えず発射すればいいんだろ」
 Runeはクシャミ一つせずにそう言うと、花火の装填にかかった。
 その頃、香奈子は第二の人材を探しに行っていた。

ぱーんぱーん。
 遠くから綺麗な花火が。煌めきがあがる。
 祭りの客全員が、その光の協演に、火薬の芸術に頬を赤らめる。
 小さな光が打ちあがり、空で弾け、金色の柳を更に描き、絶妙のタイミングで爆音が響く。歓声、歓声、
歓声。溜息、溜息、溜息。
 花火を観ていたゆきは、ちらと横にいる初音の顔を見やった。
 瞬間、空では既に牡丹が開いている。
 しかしゆきは、煌めきに照らし出される初音の横顔ばかりに見とれていた。
 いやいや、ゆきばかりでなく。
 おそらくは、想う人が居るもの全て、その人の横顔に見とれているのだろう。
 …………。
 暫くそうしていて、──そのうちに花火の大連発は終了してしまったのだが──見られていることに気が
ついた初音(だけでなく、全ての見つめられていた者達)が『どうしたの?』という風な表情をして振り向
いたときだった──────────

 その数分前。
「連れてきたわよ」
 人捜しをしていた香奈子が、戻ってきた。
「なんデスカ?イッタイ」
 連れられているのはTaSだったりする。
 すると、Runeはさも当然のように筒を取り出し、
「この中に入ってくれ」
 という。で、TaSも当然のように、
「おやすいごようデス」
 と、言いつつその中にはいる。
「じゃ、点火ーーー」
 香奈子がそう言い、健やかが火を付ける。
 見事、TaS花火が打ちあがった──

「美しい命の炎だ──」
 それは違う、柳川。

 打ち上げられたTaSは空まで飛んでいくと、右手を耳の近くでぱっと開かせ、左手をぴっとのばす。そ
して腰をやや捻り、両足を肩の広さに広げる。勿論空中で。
 そして、火薬に火がついたとき、
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 大袈裟な笑い声とともに、「HA」の文字が大量に、星の煌めきを埋めた。
 歓声が笑声に、溜息が嘆息に変わる。
 しかしそれも一部までには届かないが。
 相変わらず、照らされた横顔を見つめている者達も、確かにいるのだ。
 大歓声に埋もれて。
                     … … お し ま い … …