Lメモ 「ある1日」 投稿者:koseki

 ………ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ………
 …枕元で目覚ましが鳴ってる。
 午前七時半、そろそろ起きて、朝食を取らないと学校には間に合わない時間。
 ……だけど。
「琴音さま、そろそろお時間でございます、準備を」
 部屋の前から世話役の声が聞こえる。
 ヒメカワ星人と名乗る彼らの話によると、私はあの人達の王女様で、ヒメカワ星の後継
者らしい……私には関係無い話だけど、今日のようにお母さんがいない日は、こうやって
わざわざ様子を見に来てくれる。
「……琴音さま?」
「あ、はい、今行きます」
 ボーっとしてる、体に力が入らない…………風邪かな?
「どうやら、風邪のようでございますな」
「きゃっ」
 ふと気がつくと、ベットの横に小さい頃の私が居る。
 写真でも鏡でもない、ヒメカワ星人は、皆この姿だそうだ。
 …………結構怖いかも。
「琴音さま、学校はお休みになりますか? この熱では学業に支障をきたす恐れがありま
すが」
「あ、ありがとうございます…でも、今日は日本史のテストがありますから…」
「あまり御無理はなさらないでください、今年の風邪は性質が悪いとの噂です…体調に不
安を感じたら、すぐにお帰りくださいませ…あ、そうそう、お薬を用意しましょう」
「いつもすみません」
 違うヒメカワ星人の人が、紫色した飲み物を持ってくる。
 手渡ししてもらって一口…暖かい。
「いえ、私など気になさらないでください、では着替えの方はこちらにおいて置きます」
 二人が突然目の前から消える、瞬間移動…と言う超能力らしい。
 私も色々なチカラが使えるけど、彼女達ほど強力ではないし、それに自分では使いこな
せない、出来るのは、簡単な予知くらい。
 ヒメカワ星人の人は「チカラを使いこなせない理由は私のチカラが強力過ぎるからだ」
と言うけど、本当なのかな?
 本当だとしたら、いつか私のチカラが他人の迷惑にならない日も来るのかな…
 ……ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ……
 目覚ましがまた鳴り出した、七時四十分、大変、急がないと本当に遅刻しちゃう。
 私は慌てて着替える、そして、いつも出張でいないパパとママの写真に挨拶。
「あ、琴音さま、朝食は?」
「ごめんなさい、遅刻しちゃうからもう行きますね」
「そうですか…あ、決して無理はなさらないでくださいませ、チカラが暴走する危険性も
ありますので」
「はい、じゃ、いってきます」
 外は、今日も良い天気のようだ。




      Lメモ 「ある1日」




「おはよー」「うーっす」「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た??」「あれー、私のシャープ
ペンどこ?」「まーたテレビの話か、つまらねー」「なぁ弁当分けてくれよぅ」「なによ
ぅ、じゃあ貴方は何か面白い事あったのさー」「あ、誰かこの問題の答え知ってるー?教え
て」「誰が貴様なんかに、つーかこんな時間から食うな」「ああああああっ、俺のカンペ
何処に行ったぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
 授業前の教室は、相変わらず騒々しい。
「あっ、琴音さん、おはようございます」
 短髪痩身の男の人は、読んでいた本を閉じながら、私に挨拶してきた。
 『黒魔術の歴史とサルでも出来る他人の呪い方』
 ……良くわからないけど、多分趣味の本なんでしょうね。
「おはようございます…余裕ですね、東西さん」
「え? ああこれですか、まぁ、いまさらじたばたしても始まりませんからね」
 笑いながら、でも、東西さんは慌てて本を隠した、一体どんな本なのかな?
「危ない危ない、見つかるところだった…それにしても、琴音さん、熱でもあるのかな? 
いつもより元気無いけど、でも、やっぱり今日もかわいいなー」
 どこからか、声が聞こえる。
「え? あ、あのその、どっ、どうも…」
「なっ、何か??」
「いえ…東西さん、今何か言いませんでした?」
「なっ何も言ってませんよ、と、えーと、ほら、もう時間なので失礼しますね」
 逃げ出すように、東西さんは自分の席に戻っていった。
「(おかしいな、確かに聞こえたはずなんだけど…)」
「よーし皆席につけ、日直は誰だ」
 柏木耕一先生が叫ぶと、あれだけ五月蝿かった教室がすぐ静かになった。
「きりーっつ、礼、ちゃくせーき」
 当番の生徒がやる気なさそうに挨拶をする。
「あ〜っとに、千鶴さんも毎日毎日俺なんか追いまわしてて良く飽きないよな― まぁ料
理食べさせられるよりはましか、あれ食わされると半日は何も出来なくなる、っと」
「どうした、琴音ちゃん」
 とっさに机の下に隠れた私を、耕一先生は不思議そうな目で見ている。
「えーと、その…千鶴先生がが来るかと思ったので…」
 私がそう言うと、耕一先生はそのまま硬直し、他の皆はいっせいに地面に伏せた。
 …
 ……
 ………
 …………
「…なにも起こりませんね」
 教室全体から、安堵のため息が漏れる。
「琴音ちゃんの予知が外れるのもも、めずらしいね」
 予知と言うか…条件反射なんですけどね。
「千鶴先生の料理の話をしているから、飛んでくると思ったんですけど…」
「千鶴さんの? 今は誰もしてなかったでしょ、そりゃ―確かに殺人的にまずいとか、言い
たいことは山ほどあるけど」「あら、呼んだ?」
 突然沸いて来た千鶴先生に、口を滑らせた生徒は一瞬でスクラップにさせられた。
「ちっ、千鶴さ…校長、今は授業中ですよっ!」
「も〜耕一ちゃんったら、冷たいんだからー☆」
「頼みます、頼みますから」
 耕一先生の必死の説得で、千鶴先生は(あまり)なにもしないで帰っていった。
「いやー、やっぱり当たるんだな、琴音ちゃんの予知は」
 ……私、予知なんてしてないのに。
「琴音さん、大丈夫? 眠くないですか??」
 東西さんが心配そうな顔をして聞いてくる。
「ええ、平気です」「超能力の消耗は本人の想像以上に大きいからなぁ…心配ですよ…」
 また、東西さんの声がする。
 でも、今、東西さんの口は全然動いていなかった、
 ………これって………もしかして、人の考えが読めてるのかな??
「体調が悪くなったら言って下さいね、保健室に連れて行きますから」
「(今日はテストだからなぁ……寝ちゃうと大変ですよ…)」
「あ、はい、ありがとうございます…大丈夫、寝ませんよ」
 にっこり笑って言うと、東西さんは明らかに狼狽している、くすくす、ごめんなさい。
 それにしても、困るなぁ、こんなチカラ…
 これがヒメカワ星人さんが言ってたチカラの暴走なのかな? 早く直ってくれると嬉し
いけど…取りあえず、意識を強く持ってチカラを抑えこみます。
「みんな静かに、テストを始めるから机の上の物を片付けろよ」
 っと、いけない、ボーっとしていたらもうテスト用紙が回ってきてる、集中集中…


1.【図1】〜【図3】を見て、問いに答えなさい。ただし、【図1】は、P.7〜P.8の
間にはさんであります。

問1 【図1】の地形図中にある「中電水島発電所」は、どのような発電所だと考えられ
ますか。ア〜エから1つ選び、記号で答えなさい。また、なぜそう考えたのか、説明しな
さい。
  ア.水力発電所  イ.火力発電所  ウ.原子力発電所  エ.地熱発電所


 …………え?
 目の前にある問題は、どう見ても現代社会のテスト問題。
「東西さん東西さん、今日の一時間目って、日本史じゃ?」
「え? 国語は明日ですよ?」
「こらそこ、こそこそと話しをしない、テスト中だぞ」
「あ、すみません」
 ……失敗したなぁ、昨日は日本史しか勉強してなかったし…
 教壇の方を見れば、試験官の耕一先生はゆっくりと、眠りにつこうとしている。
 あんなを見てると、教師ってとても楽な仕事に見えますね。

 耕一先生が眠りにつくと、生徒達の行動は大体二手に分かれ始めました。
 真面目にテストを進める者と、早々と諦めて眠りにつく者。
 ……今日は、お日様もぽかぽかと暖かく、とても良い天気です。
 …………どうしよう?
 テストは勉強していない所だから解りませんし、こんな良い天気だと余計にねむく…
「おい、あれあれ」
 教室が、少しざわつき始めました。
 何事かと思って見て見ると、そこはアフロ…いえ、Yinさんの席、そして、その緑色
のアフロの周りには白い漫画の吹き出しのような物が浮かんでいます。
『んーと、この問題は一昨日の授業で出たやつだな、確か…イだったっけ?』
 ……Yinさん、思考が吹き出しに出てます。
「マスター、思考が漏れてますよぅ」
 あ、アイナラちゃんが教えてしまいました、残念。
『あーあ、まだ見終わってなかったのになぁ…』
 回りの人の思考が頭の中に入って来ます、まったく、その通りですけど。
『考えてる事が読めれば、カンニングもし放題なのになぁ』
 …………あ。
『誰にも気がつかれないし、一番安全なカンニングだよなぁ』
 私の場合、勝手に入ってくるわけで、カンニングしようと思っているわけじゃ無いんで
すけど…

 …………でもまぁ、勝手に入ってくるんじゃ仕方が無いですよね。
 それじゃ、抑えてたチカラをゆっくりと開放して見ます…
『あー腹へった…早くおわらねーかなぁ…』『う〜こんな問題やったっけ??』『あっ、
昨日の内に食材発注したのかな?』『鬼は滅するべし滅するべし滅するべしつーかゆきさ
ん、君には負けんっ!!』『ええぃ何故この僕が邪悪なやつらのテストなど受けねばなら
んのだっ、しかもこれで成績を決めるだと、けしからん、悪だっ、いずれ必ず滅ぼしてく
れるわっ!』

 ぷちっ
 ………失敗失敗、ちょっと無秩序過ぎましたね。
 これじゃ何がなんだか解りませんね…もっと精神を統一して、誰か一人の思念を抽出し
ないと…

『うう〜ニトログリセリンって、何であんなに暴発しやすいんだろ?? でも、そーゆー
のを考えると、ゴ●ラのメーサー戦車なんて凄いよなー 通常車両の2倍くらいの大きさ
で、どうやってあんな強力なレーザーを出せるんだろ? やっぱり核なのかな〜 でもそ
んな事したら●ジラがさらに強くなるし、都市部も全滅するよなぁタキオン粒子とかそー
ゆーのかな? でもあれだけ強い国防軍持ってるならすぐ世界統一できそう』

 ………誰? テスト中に今な事を考えてる人は!?
 思念の発信源をたどって見る、これは…kosekiさんかぁ。
 よりによってあんな何も考えていなそうな子の思念拾っちゃうなんて…誰か別の人を…
 そうだ、うってつけの人が居るじゃない、クラス1の秀才、神凪さんが。
 
『……………………………………………………………………………………………………』

 え?
 うそ、何にも考えてない??
 それともあの人、なにか思考が漏れない様に細工してるのかな??
 もぅ…マルチちゃんはどうだろ?
 あの子なら考えながらやってると思うけど…

『あうー 良いお天気ですね〜 小鳥さん達も楽しそうです〜』

 ……人選間違えましたね。
 ああ、もう…真面目にテスト受けてる人は居ないのかしら、ここは。

『セリオセリオセリオセリオセリオセリオセリオ』『初音ちゃん初音ちゃん初音ちゃん』
『ビーム兵器が一番優れた兵器なのになぁ…一瞬の内に生み出される閃光、通りぬけた後
のこげ具合…うふ、うふふふふふふふ』『あ〜ニンジン食いてぇなぁ、ここの学食も不味
くないけど、やっぱり生が一番だよ、うん』

 っと、また集中力が乱れて…

『ぼ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』『導師、同士、どうし…うむ、そろそろ新しい
ネタ考えないと』『わぁ〜 このプリント、綺麗な写真がついてるですぅ〜』『お? 5
番の問題はウか?』『解るかこんな問題…こら、美加香、ちゃんと見えるところにプリン
トを置きなさい』

 あっ、今答えが…

『今日は何を作ろうかな〜耕一お兄ちゃんが喜んでくれるといいけど、あ、ゆきちゃんも
呼ぼう』『うおぉぉぉぉぉおおおおお!!! こんな問題、気合で片付けてやらぁッ!!
神威のSS使いを、格闘部員をなめるなぁぁぁぁぁぁああああ!!!』『う〜ん腹が減っ
たなー 後で智波に何か買ってこさせるか?』

 …………も〜
「いい加減にしなさいっ!!」

 ガッシャァァァァーンッ!!!
 チカラが暴走し、教室のガラスが粉々に砕ける。

「「「「「「「「「「………はい?」」」」」」」」」」

「えと、あの、その………あっ」
 みんなの視線が集中する中、私の意識はぷっつり途絶えてしまった。










 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

 遠い所から、鐘の音がする。
 ここは…どこ?
「彼女…琴音さん、随分な熱がありましたからね、無理をしていたんでしょう」
「はぁ…申し訳ございません、御面倒おかけして」
 私が寝ているベットから、薄いカーテン一枚隔てた所で、男女の話し声が聞こえる。
 と言うと…ここは保健室なのかな? じゃあ、男の声の人はNTTT先生だ。
 うう…恥ずかしいなぁ…
 でも、そう言えばテストはどうなるんだろう、ガラスを割ってみんなに迷惑もかけたし…
もしかして、これから私だけ残ってテストを受けるのかな? そうなったらどうしよう…全
然勉強なんてしてない教科だし……逃げようかなぁ……
 布団をゆっくりはがし、静かに上半身だけ起き上がる。
「おや? 琴音さんが目を覚ましたようですよ」
 あぅ…NTTT先生、気がつくのが早いです。
 カーテンがめくられ、さっきまでそこで話していた二人が顔を覗かせる。
「琴音っ」
 男の人はNTTT先生、もう一人は…お母さん!?
「お母さん…何で?」
「娘の心配をしない親がありますか、大丈夫? 熱は無い??」
 お母さんがいきなり私を抱きしめた。
「お母さん、苦しい…苦しいよ」
 苦しい…でも、何年ぶりだろう、こうやって抱かれるのは。
「まぁ、今日はテストも中止になりましたので、後はゆっくり休む事ですね、では失礼」
「はい、どうもありがとうございました」
 NTTT先生が保健室を出ていく。
 ………助かったぁ………
「お母さん…迷惑を書けてごめんなさい、お仕事休んだんでしょ?」
「…別に良いわよ、たまには、所でどう? 大丈夫? まだゆっくりする?」
「あ、大丈夫です……でも、あのっ」
 お母さんの腕の中、暖かい…
「なに?」
「………もう少し、このままでも良いですか?」
「……………ええ、いいわよ…」
 風邪も引いちゃったし、クラスのみんなに迷惑かけちゃったけど…たまには、こんな日
があっても良いよね。
 お母さんに抱かれながら、私はまた、ゆっくりと眠りについた。







「琴音さんどうしたのかなぁ…いきなり暴走しちゃって…やっぱり調子が悪かんですかね」
「あうぅ…そんな事良いからガラスの後片付け手伝ってくださいよぅ〜」
「と、言う訳で先生、琴音さんの見舞いに行って来ますっ!」
「ああっ、東西さん逃げる気ですかぁっ! じゃあぼくも…」
「………片付けサボったって、柳川先生に言いつけるぞ〜」
「あぅぅぅぅ…………なんでぼくだけぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


                          York's in his heaven. All's right with the world
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 ……………いきなり何を考えてるのかな、自分(汗)
 と、言う訳で、自分がパロディをやって見るとどうなるか、とおもって書いてみたので
すけど…
 友人曰く、「Lか、これ」
 ………むぅ(汗)
 ヒメカワ星人がなんか違うとも言われますし…(汗)
 元ネタは、ゆうきまさみ短編集「となりの異邦人」の中の一作です。
(しかし…シリアスにもギャグにもならなかったなぁ…)

 何はともあれ、でぃるくせん様、東西様、夢幻来夢様、御協力ありがとうございました。