Lメモ 「勇気の証明」 投稿者:koseki

 甲高い笛の音が響き、鉄製の校門が一斉に閉ざされる八時半。
 生徒指導部の肝いりで毎朝行われるようになった早朝の遅刻者取り締まり……では
あったが、一向に減らない遅刻者と対する風紀委員の減少により、全盛期の面影はす
でにない。
 今日、遅刻を取り締まる委員は二十名。
 半数が校門前、残る半分は強行突破をはかった不届き者を昇降口で待ち受ける、二
段構えの体制を取っていた。

「正門、突破されました!!」
「って、まだ十秒もたってないぞっ!!」

 一般委員の無線報告に、昇降口班の班長をしていた真藤が絶叫する。

「……あ〜 こりゃ、今日も駄目ですかねぇ〜」

 盾代わりに並べた机から、首と二門の砲塔だけ突きだしているkosekiの後頭部に蹴
りを一発。

「ええぃ、今日こそ、今日こそは遅刻者共を一網打尽にするのだっ」
「な、何でそんなに燃えてるんですか?」
「うふふふふ、いや昨日佐奈田君と取り締まれるかどうかで賭をしてな?」
「……誠二さん、それ、服務規程違反」
「…………解ってるよな、koseki」
「ううっ……正義はいずこ」

 脅される方にも問題は十分あると思うが。

「ふっふっふ、だぁ〜いじょ〜ぶ! この辺一帯にはこの俺が念入りに罠を仕掛けてあ
 る。 ほら、君の大砲にも少しは期待してるんだから、片目つぶってよーく狙えよ!」
「そんなこと言ったって、ハイドさんや秋山さんや……部長が来たらどうするんですかぁ〜」
「その時は両目つぶりな、来たぞっ!!」

 正門の方から、土埃と喚声が聞こえてきた。

「撃ち方よぉ〜い」

 各員、風紀委員会の経費で購入したエアガンを構える。
 ……構えたまま数秒。

「撃てぇっ!!」

 エアガンを改造して取り付けた暴徒鎮圧用のゴム弾が、接近する土煙に叩き込まれた。
 それを見て回避を試みた生徒も、真藤のしかけた罠にはまり再起不能になっていく。

「……良し、やったか!?」

 土煙がゆっくりと引いていき、地面に転がってうめく生徒達の姿をあらわにする。
 ……が、負傷者の中で平然と立っている人影が一つ。

「…………人が急いでいるときに、面白い事してくれるじゃないか…………」
「ジン…………ジャザム!?」

 この学園の中でも、喧嘩を売ってはならない人間の上位に立つ男の名を、風紀委員
達は呟いた。

「あちゃー」

 kosekiはため息をつきながら、ヘルメットに付いている射撃補助用のバイザーをお
ろして視線を隠す。

「(……今日の一時間目は自主遅刻だなぁ……)」

 風紀委員会、真藤指揮の昇降口班が爆風に吹き飛ばされたのは、それから数秒後の
ことである。





   Lメモ 「勇気の証明」



  土曜日

「部長ぉ〜 朝のあれはヤッパリやりすぎですよぉ」
「あ? あんなの撃ってきたほうが悪い、正当防衛だ正当防衛」
 土曜日ということもあり、早く授業が終わった運動部の面々がグランドのあちこち
で準備体操をしている姿を横目に、ジン、ゆき、kosekiといった科学部部員たちはの
んびりと昼食の準備をしている。 てぃーは格闘部の合宿で山へ、ひめろくは柳川に
付き合って実験中、東西は面白そうだと近所に出来たアンティークショップに行った
まま帰って来ない。 で、結局暇な男三人が芝生の上で昼食を取っていた。

「だから、YFー16の全長はFー14と同程度だろ? そんなサイズの機体にマイ
クロミサイルをあんなに積んでるんだ、一発一発の炸薬量が多いわけ無いんだよ」
「でも反応物質だって実戦使用が可能なほど技術力が上がってるんですよ、炸薬の質
も向上しているはずじゃ?」
「おやぁ〜 ゆきさん、今日は初音さんと帰らないんですか?」
「そんな、毎日一緒に帰ってるみたいなこといって……今日は彼女、お料理研究会の
 方にでてますから」
「部活がなければ一緒に帰ってる、と」
「そーゆーこと言うのはこの口かっ!!」
「ふみゃぎゃもいにゅのぃ〜」
「………ったく」
 ぐったりと気絶したkosekiを横目に、ジンは手にした焼きそばパンの残りを一口に
飲み込んだ。
「ジン先輩、おーっす」
「ん? なんだ、藤田……とほら吹きスピーカーか」
「誰がほら吹きよっ」
 隣にいた志保が叫ぶがジンは馬耳東風。
「ジン先輩、俺たちも一緒してもいいっすか?」
「んぁ? まーその辺に座れば?」
 かくて暇人が五人に増える。
「そーいえば藤田、今日はお前の嫁さんたちどうした? 神岸と佐藤」
「嫁ってゆーなぁっ!!」
「今日は二人とも部活なのよねー」
 志保はわめく藤田を無視して不味そうにカフェオレを飲んだ。
「あんたらは部活しないでいいの?」
「柳川先生が何か作ってるんですよ」
「ぁぅ〜 で、完成するまで待機してるんで」
 
 ちゅどぉぉぉぉぉぉぉおおおおん
 豪快な爆音が、科学部の部室の方から聞こえてきた。

「…………すけど、今日は終わりみたいですねぇ〜」
「………だな じゃあ帰るか」
「あ、じゃあさ、これからみんなでカラオケ行かない? どーせ暇なんでしょ?」
「何でお前と」
「別にかまわん」
「あ、はい」
「は〜い」
「賛成多数、行くわよねぇ、ヒロ?」
「ちっ、わーったよ」
 藤田は嫌々立ち上がる、ゆきも広げていた弁当箱を片づけ始めた。
「あ、志保さん。カフェオレの空このビニール袋に入れてください、捨てときますから」
「ん、ご苦労………あ、そーいえばkosekiさぁ」
「はい?」
「最近、OBと付き合いあるって本当なの?」
「OB?」

 きょとんとして首を傾げるゆきに、ジンが答える。

「この学校の卒業生だ、ただ、根性の腐った連中でな、連なって町中幅きかせてる屑ど
 もよ。 いわゆるチンピラ予備軍」
「へぇ、あまり聞きませんね」
「模範的な高校生活おくってれば関わる事なんて無いがな。 しかし……その話、本当
 なのか?」
「いや、あのそのぉ〜…………」
「…………………」
「ごごゴミ捨てに行って来ますね、でわっ」



「…………………ありゃ帰ってこないわねー」
「大方、バイトの新聞配達の途中で絡まれたんだろうが………感心せんな」

 kosekiが走って消えた曲がり角を、ジンは難しい顔でじっと睨んでいた。




「あぅぅ〜」

 さっきまで休んでいた中庭から、かなり離れた所にあるゴミ焼却炉の前でkosekiは頭
を抱えながら悶えている。

「どーしよぉ〜」
「………なにやってるの?」
「……あぅ、健太?」

 目の前には、ゴミと戯れるkosekiを呆然と見ている幼なじみがいた。

「なにやってるのかねー」
「うぅ〜 ぼくだって色々あるんだよぉ」
「色々ねぇ まぁ、あれだけ大人しかったお前がいきなり人体改造なんかしてるんだか
ら、中学で色々あったのは分かるけどね」

 体にまとわりついた紙ゴミなどを払ってやりながら、健太は苦笑する。

「まぁ、困ったことがあったら言いなよ、三年ぶりに同じ学校になったんだからさ」

 kosekiと健太、ともに幼稚園から小学校の卒業の頃までよく一緒に遊んでいた、中学
に入ってからは学区が違ってしまったのでたまにしか会えなくなっていたが、それでも
kosekiにとって、数少ない親友である。

「う…ん……いや、大丈夫だよ、うん」
「ホントか?」
「うん」
「ホントにホントか?」
「大丈夫だよ…………多分」
「何かあったらちゃんと言えよ、もう時間無いんだしさ」
「ん? どーしたの?」
「いや……実はな」
「あ、健太さんそんな所にいたんですか、千鶴先生が職員室まで来てください、だそう
ですよぉ〜」

 二階校舎の窓から、健太のクラスらしき女子生徒が身を乗り出して叫んでいる。

「おぅ、さんきゅー koseki、すまんがまたな」
「うん、またね〜」
「何か困った事があったら言えよ〜」

 走っていく健太に向け、適当に手を振って別れを告げた。

「…………いったい何だったんだろうねぇ」



 草木も眠る丑三つ時。
 この言葉がさほど意味を持たなくなったのはいつ頃からだろうか、午前二時を回ろう
かと言う時間でも車は走り回り、店の明かりが歩道を照らす。 場所が住宅街に移って
も、近年雑草のごとき広まりを見せたコンビニたちが闇夜を照らし、安眠している町の
一部に活気を与えている。
 しかし、深夜に輝く光は普通に生きる者より闇に生きる者を引き寄せるのか、道路沿
いに建てられたそのコンビニの前にたむろしているのは、むしろ真っ当な生活を送れな
い種類の人間たちだった。

「はぁ………お金、ですか」
「はぁ、じゃねーだろ」
「都合してくれよ、飲み代がねーんだ」

 二十四、五歳くらいの男が複数、その中心にkosekiはいた。

「でっ、でもぼく、この前渡したお金で全部ですから……」
「ばぁか、無いんならどっかからパクッてくればいーだろ!」
「てめぇ、新聞屋でバイトしてるんだろ? そこの金でももってこいよ」
「そっ、そんな……」
「あぁん? またボコられたいか?」
「いっ…………ぃぇ……………」
「ダチだろ、俺ら」
「んじゃ、明後日またここでな」

 逃げんなよぉと言う声が、男たちのバイク音にかき消され、kosekiは一人コンビニの
前で呆然とする。

「…………よぉ」

 そんなkosekiに声をかけた男が一人。

「………………健太?」


  二時四十分 小学校校庭


「………やな所見られちゃったねぇ〜」
「ったく、何かあったら言えっていってただろ?」

 深夜の小学校、二人が学んだその場所に昔から設置されていたブランコに座りながら、
二人で缶ジュースをチビチビ空ける。

「……大丈夫だって、中学三年間はずっとこんな感じだったから……良くあるんだよ、
こーゆーの」
「良くあるってお前なぁ……」
「ぼくは健太みたいに強くないからねぇ……」
「…………おいkoseki、お前強くなりたくてここに来たんじゃないのか? 藤田先輩や
ジン先輩みたいによ」
「……うん、そーだよ、いつだってそう思ってる………でもねぇ」
「でも?」
「ぼくは腕っぷしも弱いし、顔だって強面じゃない、幾ら訓練してもちっとも強くなれ
ないし人つき合いだって下手だもん………部長や浩之さんみたいになんか逆立ちしたっ
て慣れっこないんだよ」
「………………………………………………………………」
「あっ、部長たちには内緒にして頂戴ね、もしこんな事聞かれたらタコ殴りじゃすまな
いから」
「……なぁ、やっぱよせよ、あんな奴らと付き合うのは お前、こんな事から抜け出し
たくてりーふ学園に入ったんだろ?」
「………仕方がないよ、ぼくに出来ることは大砲背負って鎧着て、部長みたいな強い人
のそばで精一杯虚勢張る事くらいしかできないもの。」
「…………虎の威を借りる狐、か」
「ぶっ、ぶぶ部長ぉ!?」

 小学校の金網フェンスの後ろ、街灯の明かりの下にkosekiが所属する科学部の部長、
ジン・ジャザムがコンビニの袋を抱えて立っていた。

「koseki、てめぇ自分がどれだけ情けないこと言ってるか分かってるのか?」
「………」
「虐められるのが怖くて前の学校から逃げ出した、それでも強くなれなかったから格好
だけ真似て威張ってみる、お前が言ってるのはこんな情けないことなんだよ!」

 kosekiは下を向いたまま、何も言わず地面を見つめている。

「…………………興ざめだな」

 ジンは、袋から肉まんを取り出しながら歩いていった。

「……………………」
「…………………………………………」

 kosekiの懐から、短い電子音が三回響く。

「……ごめん。 もうお仕事だから……」
「ああ、またな」

 kosekiが座っていたブランコの下に、黒いシミが数個。
 それを見ながら健太は残り少なくなったジュースを一気に飲み干し、数年前まで通っ
てた学舎を眺め、一人残されたグランドでため息をついた。 

「………うん、決まったな。 転校する前に、最後にあいつにしてやれる事が」

 今まで仲良くしてくれて………ありがとな………




   日曜日 りーふ学園科学部部室

「ん? 健太が明日転校する? ……………誰だそいつ」
「ほら、koseki君の友人ですよ」

 ゆきとジンが、昨日崩壊した科学部の部室を修理しながら無駄口を叩いている。

「幼稚園の時からの親友だったんだって」
「ふーん、kosekiは知っているのか?」
「いや、まだじゃないですか? 健太君、辛くて言い出せないっていってましたし」
「幼なじみ、ねぇ………辛いんだろうな、別れるのも」
「おいジン、ちょいとそこの柱片づけてくれんか?」
「koseki君に教えてあげた方が良いんですかね?」
「いや…………でもなぁ、昨日の夜ちぃと言い過ぎたし」
「でも、知らないまま別れたらきっと後悔しますよ」
「おい、ジン」
「そうだよなぁ………ぬぅ」
「ジンっ!!」
「んぁ、すまん。 この辺の物焼き払えば良いんだな」
「ちょっ、ちょっと待て!」
「食らえっ 必殺 ブレストファイヤー!!」

 …………一から作り直した方が早くなったのは言うまでもなく。




   同日深夜 コンビニ裏

「何ですか、こんな時間に………あの……お金はまだ出来てませんけど………」

 暗くて良く解らないが、kosekiが呼び出された場所にはリーダー格の男の他、昨日と
同じ……いや、昨日より一人多く、二人に寄りかかるようにしている男がいる。

「いよう、kosekiちゃん」

 気色の悪い笑い声が、辺りに響いた。

「な、ななんでしょうか?」

 kosekiの声は、わずかな怯えを表すかのようにうわずっている。

「いや、なに。 お節介焼きのヒーロー君が居たんで教えてあげたくてねぇ」

 コンビニの明かりが唯一照らされている場所に、先ほど寄りかかっていた男が連れ出
される。

「……よぉ……格好悪いとこ見せちまったなぁ」
「けっ、健太!?」

 よほど念入りに殴られたのか、服の至る所はすり切れ、顔は腫れ上がり、口からは血
が垂れている、歯も数本折れているだろう、言葉がいつもより不明瞭だ。

「この餓鬼、お前から金せびるのやめれって頼みにきてやがるの。 失礼な話だよなぁ」
「話せば解る……って思ったんだがなぁ、わりぃ、koseki」

 脇で健太を抱えていた男が、腹に一発パンチを食らわせる。
 健太の呼吸が止まり、力無く倒れ込んだ。

「健太ぁ!?」

 駆け寄ろうとしたkosekiを、リーダー格の男が呼び止める。

「なー、kosekiよ」
「?」
「俺らに変わって、こいつの顔に天誅食らわせてくれや」
「なっ!?」
「そーすりゃお前がチクッた疑いも見逃してやるし、オトシマエが付いたって事で俺らも
 スッキリするしよ」
「じゃねーと、俺ら全員を敵に回すぜぇ」

 全員の視線が、kosekiに集中する。
 針のような視線。
 膝が震え、全身から力が抜けていく。
 怯えるkosekiを、男達はにやにやと眺めていた。

「でっ……でも」
「断ったら、二人まとめて半殺し……だな」
「………っ!?」
「…いーっていーって、koseki。 気にするなよ」
「……健太」

 倒れ込んでいた健太が、弱々しく起きあがる。
 その脇を二人の男が羽交い締めにした。

「そうしたら後一発ですむし、恨みっこなしさ。 ノーカンノーカン」

「……………」

「…………」

「………」

「……」

「…」

「(ごめん……やっぱり僕は弱虫だ、もう……変われないよ……)」




  月曜 りーふ学園


「なにぃ! 貴様、それで健太の顔殴っただと!?」

 一年校舎の裏、日当たりの良い庭の真ん中でジンの雷が落ちる。
 あまりの大声に、昼を取りに来ていた他の生徒達が振り向くがジンは気にもとめない。

「何故戦わない! 貴様ぁ、それでも男かっ!!」
「………………………………………………………」

 左腕で胸ぐらを捕まれ、kosekiは宙に浮く。
 それでもkosekiは何の抵抗もせず、だらりと垂れ下がっている。

「ぶちょぉ……」
「なんだ」
「一発思いっきり、僕を殴って貰えますか?」
「ふんっ!!」

 ジンの右ストレートがkosekiの腹にめり込み吹き飛ばす。

「ぬぉぁっ!!」

 学生服に仕込んだ装甲板が、甲高い音を立てながら芝生の上を転がっていく。

「くぁぁああ……痛い、痛いよぉ」
「……ふん」
「……痛い……痛いけど、こんなのじゃ許されないよなぁ…………」

 腹を押さえ、泣きながら、芝生の上で悶えるkoseki。

「………よりによって、人の顔殴ったの、生まれて初めてなんですよねぇ………」

 始業の鐘が、校舎の方から聞こえてくる。
 ジンは、腕組みしながらkosekiを見下ろしている。

「授業だ、帰るぞ」
「………はい………後で……健太にもう一度謝ってきます。 …………僕は、あいつと
 ずっと友達でいたいから」
「そうだな、気まずく別れたまま引っ越しってのも後味悪いしな」
「……………はい?」
「んぁ? まだ聞いてないのか、健太、今日引っ越すんだぞ?」



  夕刻 

 山の上にある神社に続く車道の上を、kosekiは必死に走る。
 時刻は遅い。
 街灯の少ない山道では、西に沈みかけている太陽のわずかな光だけが頼りだ。


「いいかkoseki、お前はやってはならないことをした、解るな」
「…はい」
「一度壊れた友人関係を修復するのは容易じゃない」
「……はい」
「………が。 一つだけ容易に、かつすぐさま解決する方法が無い訳じゃあない」
「教えて下さい どんな事でもしますっ!!」
「どんな事でも、か? ………なら、その不良達と縁を切れるか?」


 アスファルトの車道が切れ、砂利道になった境目で盛大に転ける。
 膝がずきずきと痛み血がにじむ。
 ゆっくりと立ち上がりながら、足下に落ちていた五百円玉大の小石を右手で握った。


「よぉ、koseki、どうした? 凄い顔して」
「あ、浩之さん」
「喧嘩でもするのか?」
「え? いやあのそのどーいやなんでもないですよ?」
「…………相変わらず解りやすいなー、お前」
「………すみません」
「まぁ、いーけどな。 でも、背中のキャノンは使うなよ、跡が残る」
「あ、はい」
「で? 場所は? 数は? 加勢がいるなら付き合ってもいーぜ?」
「いえ、今回は……僕一人で」
「ふぅむ……訳ありか」
「……はい」
「じゃ、一ついいこと教えておいてやろう。 お前みたいに握力も身長もない奴はこう
 ……この位の石を握っておけば、普通に握るより硬い拳を作れるんだ」
「は、はぁ……」
「メリケンサックと同じ要領だな、まぁ、程々に頑張れよ」
「…………はい、ありがとうございましたっ!!」


 砂利道の向こうに、古い神社がある。
 一般人には夏祭りと新年以外縁のないそこは、今や不良達の溜まり場となっている。
 連中は毎日日が暮れる頃ここに集まって、それから町にでる。
 ここ半月のつき合いで、連中の行動パターンはすでに把握していた。
 
「………………ふぅ〜」

 社が見えたところで足を止め、呼吸を整える。
 これだけ近くまでくると、不良達のバイク音や笑い声が良く聞こえる。
 時刻は六時弱、後もう一時間ほどの電車で健太はこの町をでていく。
 kosekiは覚悟を決めた。

「よー、koseki。 金は持ってきたのか?」
「……いえ、もうお金は払いません」
「は?」
「きょ、今日限りであなた方とは縁を切らせて貰います!」
「ほぅ、面白いことを言うじゃねーか」
「この町で俺達に睨まれたらどうなるか、わからねー訳じゃねぇだろうな」
「……そ、それでもっ、僕はもうやめます、認めてくださいっ!!」
「考え直せよ、このまま大人しくしてればこの町で普通の生活させてやるからよぉ」
「………そんなのいりません、僕は……僕には、もっと大事なものがあるんですっ!!」

 kosekiの叫びに、社が静まる。

「………ほー、ほーほー面白いこと言いやがったぜこいつ」

 不良達がkosekiを中心に円陣を組む。

「(負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負
 けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負ける)……負けるかぁっ!!」



   深夜 N市 駅構内

「おい少年、こんな時間に何をやっているのかね? もう終電は終わったよ」
「あ〜 やっぱり終わってますよねぇ……すみません、もう少ししたら帰りますから」

 諒解とばかり手を振って駅員は去っていく。
 冷たいアスファルトの上で、kosekiは大の字になって横たわる。

「たっぷり気絶しちゃったからなぁ……」

 一息ついて、kosekiはレールの向こうを見つめ

「まぁ〜、形だけだけどさ……さよなら、健太」




   同刻

「おやジン先輩、こんな時間にお散歩で?」
「藤田か、お前こそ何だ?」
「いえ、ちょっとそこのコンビニに用がありましてね」
「ほぅ……実は俺もでな」
「へぇ……」

 二人とも不敵に微笑み、肩を並べてコンビニの裏へと回る。

「っとに、kosekiの小僧め、手こずらせやがってよぉ」
「殴りすぎて手がおかしくなっちまったぜ」
「あの金づるはもーだめだなー」
「だな……って、何だ?」

 いつものように裏でたむろする不良達の前に、ジンと藤田が立っている。

「にーちゃん、何のようだ? 今俺ら機嫌が悪いんだけどよ」
「いや、喧嘩しようと思ってな?」
「………なにぃ?」
「たった二人で俺らにかなうと……」

 言い切る前に、藤田がその男を殴り飛ばす。

「不意打ちだけど……卑怯なんていわねーよな?」
「てめぇっ!?」
「さて………楽しもうぜ」




    翌日 昼 中庭

「部長〜 焼きそばパン無かったんでハンバーガーにしたんですけどいーですかぁ〜?」
「んぁ……蒸しパンか何か無いか? 俺、訳有りで歯が痛いんだよ」
「はぁ〜い」

 kosekiは再び、人混みの集中する食堂の方へ駆けていく。

「おっ、ジン先輩。 痛みますか?」

 隣に座っていた藤田がにやにやと笑う。

「顔面に一発いいのもらったからな、素手で喧嘩するなんて久々だったとはいえ……な
 まったぜ、くそ」
「ニュースニュース、志保ちゃん情報〜!!」
「またうるさいのが……」
「何よそこっ、今日のは特ダネなんだからね!!」
「浩之ちゃん、サンドイッチ作ってきたけど食べない?」

 志保の後ろからあかりも現れ、弁当を取り出し始める。
 今日はここで食べるつもりらしい。

「……まぁ、いーけどよ」
「でねー、町を牛耳ってたOBの連中共、昨日の夜いきなり入院しちゃったらしーのよ、
 しかも全員!? 何でも『鬼がでたぁ』って泣きわめいてたらしいよ」
「鬼ねぇ……熊だったらかわいいのに……」
「あのな、あかり」
「ただいま〜 って、増えてるっ!?」
「お、koseki君じゃない。 パシリ? それだったら私カレーパン」
「いいねぇ、俺はカフェオレが好きだけど」
「もぉ、僕が食べる時間ないじゃないですかぁ〜」

 文句を言いながらも、カネを受け取りまた購買部の方へ走っていく。

「……何やらせても、下っ端が似合うやつってのはいるよなぁ」
「でも、それはそいつの選択だ、不良にこき使われるのと、俺らにこき使われるのは
 本質的には違いはない。 でも本人が望んで行うのと暴力に屈して従うのでは天と
 地の差さ……どうせなら、自分の人生は自分で選択したいとは思わないか?
 たとえ他人事でもな」
「お〜お〜哲学ですねぇ」
「…………うるせ」

 ジンは慣れないことをしたとばかり、よそをむいて蒸しパンをかみ締める。

「ただいま〜 浩之さん、志保さん、買ってきましたよぉ〜」
「あ、koseki君ご苦労様。 私が作ったサンドイッチだけど……koseki君も良かったら
 どう?」
「え? 本当ですか!? あああありがとうございますぅ〜」
「よぉ〜し、koseki、腹ごなしに特訓でもするか」
「ふぇぇ……よーやくご飯にありつけたのにぃ〜」

 あかりのサンドイッチを手に持ちながら、kosekiは半泣きになる。

「………じゃ、やめるか? 強くなるのを」
「い、いえっ、お願いします!!」

 kosekiは大急ぎでサンドイッチを口に含え、ジンの後を追った。
 



   蛇足

 健太が引っ越したのはN市の隣だそうだ。
 今度遊びに行くときは、不良達にボコボコにされたことを胸を張って話せると思う。

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半年(以上)ぶり、kosekiです。

オリキャラ有りの、ストーリーぱくりとなってしまいました(汗)
なるべくオリジナルでこういう作品を作ってみたいなぁと思う今日この頃。
今回出させて貰った「健太君」ですが、多分二度と使うことはないので見逃
してください。

真藤さま、ジンさま他、リーフキャラらの台詞回しがしっくりこなかったら
……申し訳ございません修練してきます(深々)

ではでは、失礼しました。

(尚、元ネタとして使用した作品は村枝賢一氏の「光路郎」と言う作品です)

起工2000/11/20 進水2001/1/29 艤装2001/2/06