風紀委員会L「理想と現実」 後半 投稿者:koseki
 ………ディルクセンの日記

  X月Y日

 正門にて遅刻者を捕まえる、数、およそ二百数名、風紀委員会全員に匹敵する数だ。
 ゲル弾、投網などを使って逮捕を試みるも半分以上に逃げられる。
 やはり武装強化が必要だ、せめて催涙ガスくらいは使いたいものだ。

 柳川先生に頼んだデータベースの防御プログラムは開発が難航しているらしい。

  X月J日

 最近はエルクゥユウヤもジンとDセリオの戦闘もあまり無い。
 喜ばしい事だ、これも我々生徒指導部が日々違反者を逮捕しているからに違いない。
 正しき秩序は正当なる支配の上でこそ成り立つのだ。
 今日も不良グループの一つが頭を下げてきた。
 自分達のメンバーを見逃して欲しいと言う、上納金は20万円。
 さして目立たない、弱小グループの一つくらい無視してもかまうまい。
 それよりこの金を生徒指導部が手にし、治安維持に活用される方がこの学園のためにな
るのだ。

 契約に基づいて科学部に実験台用の生徒を10人ほど送る。
 だが、今日も柳川先生から連絡は無い、遅い。

  X月K日

 柳川先生の開発が遅れている理由がわかった。
 阿部先生とずっと一緒に寝ていたらしい。
 不潔だ、風紀に反する行為である。
 何より、生徒指導部が求めているプログラムの開発を疎かにしていたのは重大なる契約
違反である。
 …今月中は待とう、それでも開発が終わらないようだったら私にも考えがある…

  X月L日

 久々にエルクゥユウヤ出現。
 被害は甚大、生徒指導部にもかなりの被害が出た。
 もう我慢できん、明日美也に阿部先生の誘拐計画を指示しよう、彼も恋人の身が危険だ
と知れば開発も進むだろうし、風紀も守れる、正に一石二鳥だ。



「む、無茶苦茶じゃないですかっ」
 kosekiが怒って立ちあがる。
「予想はしていたが……酷いもんだな…」
「どーする、このファイル」
「取りあえず手当たり次第コピーしちまおう、出す所に出せば何とかなるだろう」

 …そうはいきませんわよ…

 突然、部屋の中に女の声が聞こえる。
「あ? …おい、koseki、妙な声出すんじゃねーよ」
「ぼくじゃないですよ〜誠二さんじゃないんですか?」
「何で俺なんだよっ!」

 …いい加減にしなさい、お遊びはこれまでです…

 今まで、この部屋を構成していた壁や床がゆっくりと溶け出した。
 何時の間にか表にたくさんいた警備員は姿を消している。

 …貴方達見たいな変なプログラム、ろくに調べないで消すのはもったいないですけど…

「どどどうしますっ!」
 解けた部分は白くなり、そこにあった筈の物は全て無くなっている。
「仕方が無い、逃げよう、koseki早く脱出ボタンを押せ!!」

 …ここに侵入したのが運の尽きだと思って、おとなしく消えてくださいな…

「駄目なんです、さっきから何回も押しているんですけど…」
「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」
 誘拐速度は、幅が広くなるたびに速くなっていく。
 本棚を、机を、ファイルを飲み込みながら部屋の空白部分は大きくなっていった。
「くそっ、黙って死ぬかよっ、koseki、人を二人乗せてどれだけ飛べる?」
「判らないですよ、やった事無いですもの」
「じゃあ喜べ、実験データ取らせてやる、真藤、こいつにしっかり掴まれよ!」
「男に抱きつく趣味なんて無いんだけどね〜」
「いいか、まず天井をそのキャノンでぶち破るんだ、そして開いた穴から脱出する、判っ
たか?」
「はっはい!」
「じゃあすぐにやれっ」
 kosekiのキャノン砲が、強力な火を吹く。
 一撃で天井に風穴が開く、外への出口は完成した。
「良し、飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 藤田が叫ぶ。
 …だが、体が浮遊する感覚は一向に得られない。
「どうした、koseki」
「いや、その……腰が抜けちゃって力が出ないんですよね…」

「え?」

 侵食が、三人の足元まで迫っていた。

「「このっ大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」

 そして、世界が白い世界に塗り変えられる。






「………ん?」
 目を覚ますと、そこは機械の部品が散乱していた。
 見なれた風景……ここは。
「科学部の…部室??」
「そうだ」
 kosekiの後ろから、男の声がする。
 科学部顧問…柳川裕也だ。
「あ、ドクターこんにちは〜」
「こんにちは〜じゃない、貴様っ、あれほど開発中のメカには手を出すなと言っておいた
だろうがっ!!」
「……ドクターがここにいるって事は……ドクターが回線を切ってくれたんですか?」
 聞いちゃいない。
「ああ、そうだ、不審な物音がしたからもしやと思えば……」
「なかなか面白かったですよ〜」
「面白かったじゃないッ、貴様、罰としてジンの射撃の的にでもなるか!?」
「うう、ごめんなさい……」
「ごめんなさいで済むか」
 切れる柳川、よせば良いのにそこに真藤が横槍をいれた。
「まぁまぁ、ここは一つ穏便に…そうだ、僕達が取ってきたデータで勘弁してもらえませ
んか?」
「ん? 何処に行って来たんだ?」
「風紀委員会、生徒指導部です」
「…なるほど、まぁ良い、だが…koseki」
「はいっ」
「次は無いと思えよ……」
「……はい……」

 そして……


  風紀委員会会議室

『緊急の要件がある』
 ただ、その一言のために女優の仕事の少ない休憩時間の合間を縫って学園に帰ってきた
広瀬委員長はとても不機嫌だった。
 本来なら付き添いの貞本と一緒にジュースでも飲んでいた時間だ、貴重な時間を邪魔さ
れて機嫌が良いはずも無い。
 が、その用件とやらを聞いて驚き、そして呆れた。
『生徒指導部の学内における犯罪行為の全て』
 殴り書きでそう書かれたレポート用紙の束を見て、広瀬は気づかれないように苦笑する。
(この位誰でも気が付いていると思うけどね……)
 広瀬の視線の先には、長いテーブルの向こう側でレポートを読み上げている真藤と、横
で待機しているkosekiがいる。
 テーブルを囲む風紀委員執行部の面々の反応は、きわめて冷ややかだった。
「おい、これだけの犯罪を風紀委員会が見逃していいのかよっ!」
「生徒指導部の検挙数は無視できん、裏で何をしていると言うが優秀な組織である事は紛
れも無い事実だぞ」
「そうそう、君は危険だと言うが風紀委員会内部のはみ出し者、危険人物らがほぼあそこ
に集まっているんだ、監視するにも一箇所に集めておいた方が都合が良いじゃないか」
「それに物証が何一つ無いじゃないか、これでは生徒指導部が悪事を働いているなんて判
ったもんじゃない」
「ですからそこに資料が」
「MOに記録されたデータなど信用できんよ、幾らでも改善出来るじゃ無いか、第一これ
は待機任務中の委員が勝手に調べ上げたものだと聞いたぞ、君はそんなものを信用して今
回の会議を開いたのかね?」
「ちょっと待ってください、このデータはぼく達が生徒指導部に直接ハッキングして落と
してきたデータです、一切の加工もしていませんし、疑うのなら生徒指導部の部室を見て
きてください、今ごろ大騒ぎになっているはずですっ!!」
「……何?」
(この…バカ)
 真藤が呆れた。
 執行部の面々がゆっくりと立ちあがった。
「君、生徒指導部にハッキングしたって、本当かい?」
「ええ、それが何か?」
「「「「それはな、犯罪行為って言うんだよっ」」」」
 執行部全員が叫ぶ。
「逃げるぞっ!!」
 真藤はkosekiを蹴飛ばして逃げ出した。

「やれやれ……」
「どうするの?」
 貞本が心配そうな顔をして広瀬に尋ねる。
「てきとーに追っかけたら逃がしちゃってもいいわよ、捕まえたら反省房にいれて反省文で
も書かせておいて」
「うん、わかった……でも残念ね、この資料がもし本当なら生徒指導部を潰すいいチャンス
なのに……」
「恐らく本物よ、その資料」
「え? じゃあなんで」
「そんなものを使わなくても、私は勝つからよ」
 広瀬は資料とMOをごみ箱に捨てると、にこやかに笑った。
「だって、私は女優だもん☆」


  二年校舎、エディフェル裏

「よっ昂河」
「あ、浩之君、どうしたんだい?」
「ちょっと、これを渡しておこうと思ってな」
 そう言ってポケットから一枚のMOを取り出す。
「これは?」
「千恵美さんを襲う計画書が入ってる、ざっと見たところ実行部隊の選抜と千恵美さんの行動
データの収拾はあらかた終わっていたみてーだな、ディルクセンさえその気になればいつでも
実行に移せたわけだ……少しは、役に立てばと思ってな」
「でも…もう襲撃は有り得ないんじゃないかい? beakerさんがいろいろ動いてくれたし」
「保険だよ、万が一のな……千恵美さんには俺も世話になったんだ、頼むから守ってあげてく
れ、こんな事頼めるのはお前しかいねーんだ」
 藤田が頭を下げた。
 昂河は苦笑する。
「頭なんか下げないでよ、僕達は親友だろ? 大丈夫、必ず守ってくれるよう頼んでおくよ」
「…すまねーな」
「何、いいって事さ、それより僕達にはやらないと行けない事があるだろう」
「ああ、ディルクセン、あいつを何とかしねーとな……」
「ああ、彼がいる限り、こんな事がまた起きないとは限らないんだ……」
「まずは人を集めよーぜ、そして集まり次第弾劾するなり監査部に訴えるなり方針を決めよう」
「……監査部か……」


  一年校舎、リネット廊下

「このバカッ」
「何度も馬鹿馬鹿言わないで下さいよぅ」
 廊下を真藤とkosekiが歩いている。
「じゃあ大馬鹿だ、何でハッキングしたって言うんだよっ」
「ハッキングって、犯罪だったんですね〜」
「あのなぁ」
 真藤は、思わず頭を抱えた。
「それにしても、結局ぼく達がした事って無意味だったんですか?」
「そうだな、あのまま会議が進んでいたとしても結局は却下されてただろうな、あの雰囲気じ
ゃ」
「結局巨大な組織相手じゃ、ぼく達一般委員がどれだけ抵抗しても無意味なんですよね…」
「…そう悲観するものでもないさ、組織に勝てないんだったら組織で戦えばいいだろ」
「え?」
 真藤の手に、一枚の紙切れが握られている。
「逃げ出す時にとって来たんだけどよ…」
 監査部入部申し込み用紙、紙には大きくそう書かれていた。
「人員募集中だってさ」
「……誠二さんはどうしますか?」
「俺は止めておく、組織なんかに縛られたくないからな」
 kosekiは、数日前の事を思い出す。
 とーるに食って掛かった日、彼は監査部は学園の調和を保つための組織だと言っていた。
 なら、権限が大きくなって、危険な組織になりつつある生徒指導部を無視するはずが無い。
「……ぼくは……入ってみます、今のままよりはましだと思いますから」
「そうか? 別にかまわないけど、俺のほうにまで面倒持ちこむなよ」
「そうです、これ以上生徒指導部の犯罪を見逃すわけには行きませんっ! 彼らは学園の法の
元に裁かれるべきなんですっ!!」
「…おーい、俺の話しを聞いてるか? …ってマズイ、執行部の連中だ!」
 廊下の向こうから、スタンバトンを持った執行部の面々が走ってきた。
「ええっ? 何で気が付いたんでしょう?」
「普通あれだけ大声出せば誰でも気が付くわ、二手に分かれて逃げるぞっ」
「は、はいっ!」
 kosekiは慌てて走り出す。
 そんな後姿を見て、真藤は思わず苦笑した。
(あそこまで単純に生きれたら幸せだろうなぁ)
 執行部は、もうすぐ傍まで近づいていた。
 真藤は、にやりと笑う。
「かかったな、先輩方っ!」
 ポチッと、スイッチを押した。
 すると、いきなり廊下が爆発する。
 ……執行部のメンバーの足元で……
「ん〜やっぱり対戦車用地雷は強力だね☆」
「て、てめぇ……」
「何処から持ってきやがった……」
 爆煙が消えた廊下では、執行部のメンバーが折り重なって倒れている。
(ま、暫くは好きに生きさせてもらうさ、そのために転校したんだしね)

 数日後、kosekiは監査部に入部する事になる。


  生徒指導部部室

「美也、逆探は?」
「ごめん、兄さん、強力なブロックがかけられちゃって……」
「逃げられた……か、誰だ? 犯人は?」
「監査部の奴らじゃないのか? 最近かなりうるさいし、それにあそこのとーるとか言う奴は
電脳戦のエキスパートなんだろ?」
「物理的に不可能よ、あの時とーるは兄さんと会議室にいたじゃない」
「ああ、そうか」
「…他の風紀委員は?」
「鉢がねの行動記録をチェックして調べたところ、ハッキングを受けた時間帯にパソコンを使
用していた人間は20人弱、ですがいずれも無関係だと証明できます……ただ……」
「何だ? 奥歯に物が挟まったような言い方をして、はっきり言わないか」
「ええ、それが、その……これを見てくれる?」
 美也は、パソコンを操作して一枚のグラフを出す。
「鉢がねの行動記録なんだけどね」
 使用者である一年のkosekiと二年の真藤を表す光点がディスプレイに写る。
 その光点は、密接に近づいて……いや、重なるように輝いていた。
 これが意味する事は……
「…お取り込み中?」
 陽平が、冷や汗をかく。
 美也が、ほほを赤く染めた。
「誰でもいい、早く行って止めさせろ…」
 ディルクセンが、腹を押さえながら命令する。
 …彼の胃炎が治る日は、まだまだ遠いようだ。


  風紀委員会第三警邏小隊詰所

 美也は部下四人を連れて詰所を包囲した。
(ん〜まさか彼らも薔薇だったとはね〜楽しみが増えるわ♪)
 ニコニコと微笑んで、幸せそうである。
「兄さんにも好きにしていいって言われてるし、みんな、失敗しないでね☆」
「「「「はっ、美也様」」」」
 美也直属の隊員たちが叫ぶ。
 当然、全員薔薇である。
「良し、突撃っ」
 号令のもと、五人は詰所になだれ込んだ。
「全員動かないでっ、用件はすぐ済みますっ……って、あれ?」
 詰所はもぬけの殻だった。
 物音一つしない。
「美也様、これを…」
 隊員の一人が、控え室においてある二人分の鉢がねを発見する。
 kosekiと、真藤のだ。
「なんで? 一体……」
 漠然とした不安が美也の胸を支配する。
「もしかしてあいつらが……」


  科学部部室

 柳川は真藤達が手に入れてきたデータを読んでいた。
「なるほど……ディルクセンめ……」
 部屋の気温がだんだん下がっていく。
 どんな鈍い人間でも気がつくほどの、殺意。
「餓鬼の喧嘩に口を出すつもりは無かったが……タカユキに手を出してみろ……その時は」
 柳川は、手にしていたMOを握りつぶした。
 ラベルには、生徒指導部用ガードプログラムと書かれていた。
「ディルクセン、貴様は俺が殺すっ!!」


  翌日、生徒指導部会議室

 会議室は荒れていた。
 突然、柳川が技術提供を打ちきると言ってきたからである。
 再三の引止めにも耳を貸さず、それ所か逆に『貴様も死にたいか?』とまで言われたので
ある。
「一体何があったんだっ!!」
 何も知らない役員が悲鳴を上げる。
 美也とディルクセン以外は阿部先生を拉致監禁する計画を知らなかったのだ、無理も無い。
(まさか柳川先生のところに情報が流れていたとはな、まぁ、これで犯人の特定が出来たが)
 その代償としては、柳川の技術提携打ち切りは痛すぎる。
「データベースのガードはどうする、昨日あんな事件があったばかりだと言うのにっ!」
「我々の技術力ではとーるに太刀打ちできんぞ」
「どうする? 柳川先生に頭を下げて許してもらうか?」
「こっちは何もしていないんだ、頭なんか下げれるかっ!」
「だがデータの自衛手段は急務だ!?」
「第二購買部に頼むか? あそこならかなり良いプログラムがあるだろう」
「あそこに頼むだけの金が何処にあるというのだ!」
「その辺を何とか工面するのが経理だろう、何のために貴様らは毎日帳面をつけているんだ」
「何だとっ!」
 話しが段々ずれて来た。
 身内同士が争っていても何の意味も無い。
 ディルクセンは苦笑しながら席を立つ。
 …それだけで、あれほど騒いでいた生徒指導部の幹部は全員静まった。
 尊敬する、いや、信仰する神様でも見るような、視線。
「柳川先生の背任についてはいずれ何とかしよう、まず、データの自衛に関しては第二購買
部に一任しようと思う」
「ですがそんな金は」
「不良どもから貢がせればいい、払えないチームから潰していくと言えば連中も必死になる
だろう…不良どもも潰せて良い機会じゃないか」
「ですが……」
「キサマ、黙らんかっ」
 なおも抗弁を続けようとする幹部の一人を、別の幹部が黙らせた。
「忘れるな、我々は正義だ、この学園を守るための唯一の法だ、我々のする事は善なのだ、
しかるに、我々に歯向かう奴らこそ悪であり、打倒すべき敵であるっ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 ……そして、狂気はより深く……




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 ……え〜と(汗)
 でぃるくせん様、真藤誠二様、申し訳ございませんでした(汗)
 ……完全に危ない悪役とキチ●イですな、これでは(汗笑)
(真藤さんは喜んでくれていましたが……本当に良かったのでしょうか?)

 取りあえず、風紀委員会動乱、kosekiの反応です。
 勢いで監査部に入ってみましたが…その後の事をまだ考えていなかったりします(汗笑)
 ……とーるさん、後任せました(待て(汗))